「お元気でしたか、殿」
「左近」
その他愛ないやりとりの、何と親しみがこもったことか。
男は島左近と名乗った。
訊けば、禄の半分を与えて召し抱えた部下だと答えた。
「いや、違うな」
大切な同志なのだと訂正する。
鉄扇で隠した口元。
きっと綻んでいる。
(そんなこと、私は、知らぬ)
関係ないことだ。
同志だろうと。
何を話そうと。
笑おうと、怒ろうと、泣こうと。
「殿ーっ」
「どうした」
「いえ、この城の中を案内してもらいたくて」
「フン、のん気な使者だ。いいだろう」
バチン、と鉄扇を閉じれば、やはり。
元から、そう会話を交わす仲ではないから。
別れの一言もなく離れてしまう華奢な背。
無意識に手を伸ばしていたらしい。
呼んで引き止めたところで、何を。
己の中で今にもちぎれてしまいそうなのは。
(まさか、私は、
好きなのかも知れないと思って、慌てて否定した