誰の目にも、明らかだった。
薄く痩けた頬。
光を宿さない瞳。
寒さ冴え渡る朝。
静謐な空気に満ち満ちた寝室。
幾多の生死の狭間を共にしてきた、二人。
「最期、に、」
震える声で話しかければ。
僅か視線だけで反応を示す。
「何かして欲しいこと、は、」
唇が、何かの言葉を象り。
けれど声はついて来ない。
代わりに。
伸びてきたのは、骨と皮だけの手のひら。
「………、て、」
「…なんだ?」
「手、を、」
細い手を握り締めた温もりが、
「………だ、」
「きこえ、ない、」
「………すき、だ、」
「……おれ、も、」
それだけが今一番、愛おしい。
しにゆくいとしいひとへ
どうかこのてをにぎっていてください
しにゆくいとしいひとへ
あなたをあいしています