己の顔に、墨汁で。
 描き込まれていく落書き。

 鼻の下に髭。
 頬にぐるぐるの渦。
 長い睫毛を付け足し。

 最後に、眉間の皺。


「……っ」


 するりと筆が滑り落ち。
 その人は顔を伏せる。

 ぼたぼたと、新しい水分。

 墨汁は不遜な顔つきの肖像画を。
 飲み込むように黒く広がり、潰していく。


「……曹丕」


 ああ、どうか。

 そっと、背に寄り添い。
 噛み殺される嗚咽を、止めてやりたくて。


(私は、お前の傍に、)


 彼は、知る由もないけれども。





 ――どうか、泣いてくれるな。


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