「甄、」
待ちわびていた声。
振り返れば、男一人抱えた夫。
「我が君、」
「空いている場所はあるか」
「はい、あちらに」
「医者はいらん、手当て道具を持て」
「分かりましたわ」
天幕に消えていく蒼と紅。
途端集まり出す蒼の勇将たち。
「曹丕殿が戻られたのか」
「三成殿が重傷だったようだが」
「医者はいらんのか医者は?」
口々に騒ぎ立て慌てる男たちを。
一瞬で静める蒼の正妻。
艶やかな唇に、立てて添える人差し指。
「邪魔をしては、いけませんわよ?」
一度、夫の消えた天幕を振り返り。
要望を叶える足取りは、どこか軽く。
干渉されることのない世界