唇に僅かな温もりを残し。
 頬に長く、掠れた紅の指の跡。

 力なく地に落ちる腕。
 中途半端に開かれた手のひら。


「…三成、」


 青白い瞼。


「……三成、」


 ここは、戦場だ。
 だが剣戟の音も、喚声も聞こえない。


「………みつなり」


 何も紡がない唇。


「…俺は、」


 己のそれで包み込む。
 まるで温めるかのように。

 角度を変えて、何度も。
 何度も。


「三成」


 ぴくりと動く指。
 思わず体を抱きかかえ、顔を近づける。


「…みつ、な、り」


 ゆっくりと瞼が持ち上がり。
 瞳に灯る弱々しい、光。


「…そう、ひ」





 俺はその日生まれて初めて奇跡を信じた


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