華奢な体を寝台の白に押さえつけ。
 狐色の髪の中や首筋に鼻を寄せ。

 何度も何度も、飽きることなく。
 深呼吸を繰り返す。


「……おい、いい加減にしろ、曹丕」


 不機嫌な声など一切聞き流し。
 どこか恍惚とした息を洩らす。


「……あぁ、いい……三成……」
「っ、変な声を出すな! …大体、人の匂いを嗅ぐなどっ、何がしたいのだっ!」


 のしかかる体を退けようと抵抗すれば。
 ようやく顔を上げる。


「お前から、いい匂いがするのだ、三成」
「……は?」
「何か、香でも?」
「どこぞの姫君でもあるまいに」


 一蹴され首を傾げる。
 ならば、確かにこの鼻腔を擽る芳香は、何か。

 甘い蜜のような、あたたかいひだまりのような。
 考え、最後に導き出した結論。


(そんなことは問題ではない、か)


 花の香に誘われる蝶の如く。
 首筋に顔を埋め、目を閉じる。


「おい曹丕、離して欲しいのだ、が、」


 重みを増した体に、言葉が詰まり。
 規則的な寝息が、肌を擽る。


「…寝たのか? まったく、……お前という奴は」


 抵抗する気も失せ。
 蒼へ腕を回し、幾度か優しく叩けば。

 ぽつりと洩れた、寝言。


「……みつ、…な、り…」





 噎せ返るような匂いに包まれ眠る


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