静かな衣擦れの音と共に。
 流れ出す温かみ、押し寄せる冷気。
 夢うつつの意識を、急速に引き戻す。


(……また、か、)


 月光が露わにする男の影。
 寝台の縁に座り、一度脱いだ夜着に腕を通している。


(……どこに、行くのだ、)


 先刻まで縋っていた、広く逞しい背。
 残した引っかき傷が衣に隠れる。

 まだ朝も遠い夜更け。
 一瞥もくれず、栗色の髪をなびかせて立つ。


(奥方のところか、それとも、側室のところか、)


 何もかもが溶けるかと思うほどの行為。
 幾つもの絶叫を上げた声は嗄れ。
 名を呼んで引き留められない。

 散々に貫かれた身体は力を失い。
 起き上がることすらかなわない。

 せめて、重くだるい腕を伸ばして。
 男の一片でも掴もうとしても。

 綺麗に、紙一重で。
 届かない。


「………曹丕、」


 部屋の戸が閉まるむなしい音を、拒絶するように。
 両の耳を塞ぎ、強く目を閉じる。


「俺だけを見て、いて、」





 遠ざかっていく背に向かって無意識に伸ばされた腕


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