ひどく鮮明で、ひどく曖昧な。
空を見るたび、脳裏に閃く姿。
「だれ、だ、」
深い蒼が似合う人だった。
纏うそれが翻るのを覚えている。
艶のある長い髪の人だった。
触れるそれが快いのを覚えている。
氷の双眸を持つ人だった。
眺めるそれが鋭いのを覚えている。
「だれなの、だ、」
耳にこびりつく、名前を呼ぶ低音。
軍議の時、戦の時。
仕事をする時、一息つく時。
同じ寝床に入る時、体を貪る時。
僅かに声の調子が違うのを覚えている。
唇ではかたどれぬ代わり。
紙へ書き出そうとする、名前。
「わからぬ、」
墨が描くのは、意味を成さない文字。
一、曲、日。
不、一。
ぐしゃぐしゃに丸め、背後に放り投げる。
(誰だと、いうのだ、)
(考えれば考えるほど、胸が、痛い、)
(お前の、名は、)
君の名前を描けない