その男は大抵、濡れ縁にいる。

 下駄を引っかけた足をぶらつかせ。
 異国の調べを、歪に口ずさみながら。

 青い、空を。


「殿、」


 脇にいた腹心が呼んだのは。
 男の、あるべき地位。

 声の方に意識すら向けず。
 ただ、見上げている。

 瞳を染め上げるは、青。
 蒼。


「例の件、とりあえず一段落しましたよ」
「………」
「ご心配なく。次の段階も順調です」
「………」
「殿がいなくても、ね」


 足を振り上げれば、宙に弧を描く下駄。
 遠くで乾いた音を立てたのを。
 片足で跳びながら取りに行く。

 腹心は長襦袢一枚の主に、礼をした。

 廊下を行けば、僅か開いた部屋の障子。
 放置された、大一大万大吉の扇。
 目を逸らして、閉める。

 終わりを思い出せず。
 繰り返される異国の調べ。

 途切れ途切れに響く、佐和山の庭。





 あなたに逢えないという病


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