「きっと、」
「…何だ?」
「今夜が最後なのだろうな」
「貴様も、そう思うか」
解かれた長い栗色に、青白い月光が落ちている。
二人一緒が常になってしまった寝床。
拒むように向けられた背。
唇を尖らせ、栗色の一房を緩く引く。
「なあ、曹丕、こっちを向け」
「断る」
「どうしてだ」
「お前の顔を見れば、明日が来てしまう」
縮こまり、眠りに沈もうとしている肩に。
静かに回され、体を引き寄せる腕。
「三成?」
「…存外、貴様は人間らしいのだな」
耳の裏、穏やかな笑み。
心地よい高さの声。
「何を言う、私は人間だ」
「ふ、そうだな、すまない」
先程よりはっきりとした笑いも。
長い髪をしきりに梳く指も。
(悪くは、ない)
「三成、」
「何だ、曹丕?」
「お前が元の世界に戻った時には、傍に私がいると思え」
「………そうひ、」
「寝る」
二音で続きの言葉を一蹴し。
ふっ、と、肩の力を抜く。
程なくして、寝息が漏れ始める温もり。
包み込んだ胸元に落とすのは、
「…おやすみ、そうひ」
緩やかに沈みゆく夢の終焉の何処かにどうか貴方の痕跡がありますように