何の前触れもなく、蒼が。
「何だ、曹丕、」
「……」
こちらに一歩、また一歩と近づいてくる。
二人きりの部屋の中。
「曹丕?」
「………」
「おい、聞いてるのか曹丕」
「…………」
必要以上に近づいてくれば、後ずさっていくのはごく普通で。
こちらも一歩、また一歩と退いていく。
「……前から、思っていたのだが」
「……は?」
背に硬い壁。
己より少し大きめの影が覆い被さる。
「お前は、美しい」
「っ、何を、」
「どうしたらこんなものがこの世に存在できる?」
「しっ、知るかっ!」
ふいと横を向く頬を両手で引き戻す。
目も逸らせず、瞬きもできず。
硬直している唇を指で撫でる。
「触れれば、どうなるのだろうな?」
「………貴様、熱でもあるのか?」
「ない。至って健康だ」
「ま、真面目に答える、な、っ」
そもそも、美しいとか言われても嬉しくない!
というかつまり貴様は何をしたいんだ!
真っ赤な顔の抵抗にいちいち答えるのも煩わしく。
生意気な唇は唇で黙らせる。
「――……っ、そうひ、」
「存外、……柔らかいな」
「っ、こ、こ、この、痴れ者っ!!」
と罵ったはいいが、刃の瞳から逃げる場所はなく。
あるとすればただ一つ。
「いつか絶対襲ってやる!」
「逆に襲われぬよう、せいぜい努力しろ」
自ら蒼に飛び込んできて、胸を叩くのを。
苦笑しながら抱き締める。
ジリジリと距離を縮め逃げ道を塞いでしまえば気付けばお前は俺の手中って寸法さ