「…何故そこにいる?」
「…何故、と言われてもな」


 その場所の埃臭さに軽く咳き込む。
 昼間だというのに薄暗い書庫。

 次々と書物に目を通していく男と。
 黙ってその様子を見ている男と。

 要は牽制するための監視役。


(やはり、文帝、というだけあるな)


 一冊の書物に目を通す時間は長くない。
 だが鋭い刃の瞳は、一字一句逃さず捉えているようで。

 また一冊読み終え、上方の棚へと手を伸ばした。
 指先に触れた背表紙が揺れる。


「曹丕、」


 体が反射的に動き。
 書物という雪崩の轟音。


「――…っ、重……」
「……、三成、」


 降りかかってくる書物を払い。
 平気か、と訊ねてくる痛々しい笑み。


「私は、平気だが、」


 監視役も、こんな顔をするのかと。


「いつまで、私の上に乗っている?」
「………、う、わ、す、すまな、」
「……別に、構わんのだがな」


 離れようとするのを引き戻し。
 胸元の蒼に埋まる狐色。


「な、何を」
「礼と思って、しばらくこうしていろ」
「……わかっ、た」


 舞い上がった埃が静まるまで。
 二人、目すら合わせず黙っている。





 出逢って間もない僕等は まだ


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