これを、虫の知らせと呼ぶのか。
 妙な胸騒ぎを感じて寝床を出ていた。

 足音も立てずに。
 胸のざわつきが高まる方へ。

 ひどく散らかった部屋。
 むせ返るような鉄の臭い。


「甄」


 人形のような体を抱き上げる。
 息は、すでにない。

 残された無数の傷跡。
 その傷のつき方に、覚えがある。

 亡骸をゆっくりと横たえ、後ろを見やる。
 月下、点々と続いている紅。

 辿るしかなかった。
 疑問が確信に変わらないことを祈りながら。

 紅の続く先。
 青白く照らし出された中庭。

 鉄扇を手に立ち尽くす、大一大万大吉。


「三、成」
「恨むか、俺を」


 規則正しく、地面へと滴り落ちる音。
 振り返り、歪に持ち上げられる唇。


「そうやって、恨んで、四六時中、俺のことを考えていればいい」


 頭から爪先までこびりついているのは、





 いくら求めても手に入らない存在を知ってしまった 其の日


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