(曹丕、)
全ての元凶を打ち倒した夜。
時を忘れて催されるのは盛大な宴。
(見えるか? 其処から)
元来賑やかな席は好まず。
誰にも気づかれぬように抜け出す。
一つの酒の瓶と二つの杯を手に。
(皆、ひどく浮かれている)
(まるで、忘れようとするかのように)
宴から離れれば、夜は相変わらず静寂を保ち。
月光の青白さ満ちる合肥新城。
見張りの兵すらいない場所に、腰を下ろす。
二つの杯に、なみなみと酒を注ぎ。
一つは己で持ち、一つは傍らに置く。
(もし、仮に、このまま、皆がお前のことを忘れても、)
曇りない満月に、重ねるようにして。
杯を、高く掲げる。
(俺だけは、
いつもお前の名が俺の心の片隅に眠っている