「もう、よい」


 目の前に立った蒼も見分けられずに。
 殺気立ったまま彼に向ける、鉄扇。


「もう敵はおらぬ。三成」


 臆することなく間合いを詰め。
 武器を携えた手に、己の手を重ねる。
 乾いた音と共に、鉄扇が、地に落ちた。


「もう、よいのだ」


 翻った蒼に包まれる体。
 土が水を得るように、ゆっくりと我に返り。
 目にしたのは、全ての生きものが絶えた修羅。

 足の踏み場もない屍の山。
 へし折られた軍旗。
 紅の地面。


「……そ…ぅ、ひ」
「ん?」
「みな、いなくなってしまった」


 だらりと、腕が下りる。


「だれも、どこにも、いない」
「……みつなり、」


 力のこもる絆しに、天を仰ぎ。
 雲の恵む慈雨に、紅に塗れた顔を晒し。

 死地に響く、叫び。






 君の背中越しに世界を見ていた


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