「曹丕、苦しい」
「我慢しろ」


 この会話も、何度目だったか。

 全ての元凶の居城。
 柱の影は、真夜中ともなると殆ど暗闇に近い。
 体が軋んでいるのは、巻きついた腕のせい。

 もう半刻ほど経っているだろうか。
 髪を撫でる手は休まりそうにない。


「ずるいぞ」
「何がだ」
「貴様ばかりそうやって」


 互いの耳元で囁く、細い会話。
 夜風に流される栗色の髪は、触れればきっと。


「生意気な」
「何が」
「お前が私に触れようなどとは」
「なっ、」


 切れ長の瞳と視線がぶつかった瞬間。

 反論は、遮られる。

 重なり合っているであろう影は、優しく闇に包まれ。



 縛られていたい。
 あなたのものでいたい。




「三成」
「曹丕、っ、」





 でも、時間がない。


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