「今日の軍議はここまでとする」


 皆、それぞれ明日の決戦に備えるように。
 凛とした声に誰もが頷き返した。


「総大将が夜更かしか?」


 皮肉の紡ぎ方しか知らない口。
 言うに言えないでいる本心の真逆。

 月明かりにおぼろげな蒼の総大将。

 静かな光を浴びるように、夜空を仰ぎ。
 目を閉じている。


「相変わらず無粋だな、お前は」
「フン」


 すぐ傍に聞こえる息遣い。
 長く、淡く、地に張りつく二つの影。


「決戦前に腐っているのかと思ってな」
「誰が」
「知れたことを」


 短く毒々しい、いつもと等しい会話。


(これが、曹子桓)


 親を失った程度では折れぬ心。
 慰めの言葉など、それこそ無粋。

 戻ろう、と思った手を強く掴んだのは、


「三成、」


 十分な言葉もなく、腕の中。
 青白い月の下。





 行かないでここにいてなんて言えやしない。


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