何か考えてのことだと思っていた潜伏は、
　とうの昔に永遠になっていた。

　山崎の地にて。

　最初にそれを見つけたのは夏侯惇らしい。
　だが伝えにきたのは夏侯淵だった。

　大地に太く根を張った巨木の下。
　何かが埋まって、少し盛り上がった場所。

　名も知らない多くの野花たち。
　その下に眠る者の冥福を祈るように。

　言葉も出ない。
　また顔を合わせるのだと疑わなかった。


「曹丕、」


　背に、ひどく優しい温もりを感じた。

　澄みすぎて、かえって冷酷に聞こえてしまう声。
　胸に染み渡るように響く。


「今は、構わん、」


　帝王学を叩き込まれた次代の皇帝も。
　ただの人の子。


「父よ、」


　強風に、野花たちが高く舞い上がる。
　見上げることもできない夕暮れの空。





　忘れないで。思い出して。気付いて。辛い時はここにいるから。