「なあ、綺麗だぞ曹丕」


 中庭から、澄んだ声に呼ばれた。
 何が、と問うまでもなく。

 爛漫たる春。
 蒼穹に映える桃色。

 否定する理由が見当たらない美。


「もう、そんな季節か」


 大木の下、己を呼んだ男の隣。
 頬を撫でるそよ風。
 梢を揺らし、桃色の破片を運ぶ。
 優雅な蝶のように、華奢な男の肩へ。


「三成、花弁が」


 摘んで手のひらへと落とし。
 目の前に差し出してやると。


「これより美しいものは、この世にないだろうな」


 ふわり、と微笑んで。


(馬鹿を言え、)


 では、何と表現すればいい。


「三成、」
「何だ」
「好きだ」
「…俺も、





 好きだぞ、桜の花は」

 
 小首を傾げて、そう、あまりにも純粋に。
 彼に笑みをもたらしたものも、風に舞い上がってしまって。

 おそらく、生まれて初めて。
 心の中、全力でため息。





 なんでお前なんかが好きなんだろう(信じてもくれないのに)


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