覚悟はできているはずだった。
そこで死ぬのならそれが天命なのだと。
紅に濡れそぼって重たい蒼。
屍と屍の隙間に突き刺す双剣は、杖の代わり。
全身に負った傷の痛みと疲れで、足が震える。
視界は霞み、何度も屍に躓く。
我ながらみっともないほどに。
帰りたいと願った。
欲しいものがあった。
覇道よりも単純で、もっと。
果たして、どうやって戻ってきたのか。
気がつけば陣内で手当てをされている。
帰ってきたのだ、と腕に巻かれる白で実感し。
殆ど無意識に、ここにいるはずの人を捜す。
「曹丕、」
息を切らしながら、陣内へと駆け込んでくる人。
白い肌に諸々の傷。
「生きて、いたのか」
「フン、悪かったな、生きていて」
激昂し、暴言と鉄扇の一つや二つ飛んでくるだろうと。
「馬鹿者っ、」
ふわりと、狐色。
相も変わらず細い腕が、ぎう、と背中へ。
「死んだら、殺しているところだ、っ」
「死んだら、殺せるはずがなかろう?」
小さく漏れた嗚咽は、聞かなかったことにし。
身を任せるように、目を閉じる。
欲しかったのは、抱き締めるこの腕だった