今際の時に。
「甄姫様、お待ちしておりました」
文官に導かれ、皇帝の私室の奥。
寝室へと足を踏み入れる。
覇道を成すために尽くしてきた重臣たち。
一斉に視線を浴びる。
『陛下の願いを、どうか』
拒絶することもできずに。
枕元に膝をつき、骨と皮だけの手を握る。
「……みつ、なり?」
両目は布で覆われている。
病で潰れてしまった。
高熱で、五感の全てが狂い。
だから、誰が手を取っているかなど。
「……そうだ」
それでも精一杯に。
声を低くし、口調を真似て。
「細いな…ちゃんと食っているのか?」
「失礼な奴だ。ちゃんと食っている」
「ならば、いい」
長く、長く息をはいて。
しわがれた声しか出ない喉で。
「最期ま、で、言えずに、すまな、い」
わたし、は、おまえを、
唇だけの言葉を、聞き届け。
滑り落ちようとする手を、逃がすまいと。
「私も、愛して、います」
嘘を吐いて。優しく優しく嘘で殺して。