槍でも、降るのではないかと。

 部屋の前に立っている。
 眉間の皺はいつもより余計に多い。

 とうに過ぎている軍議の時間。


「三成」


 少し、声を荒げてみても。
 何の反応も見せない部屋の主。

 呼びかけたのに応答しない方が悪い。
 そう心の中で理由づけして。


「入るぞ」


 同じ部屋の間取り。広さ。
 散らばっているのは、くしゃくしゃに丸められた紙切れ。

 狐色は机に突っ伏している。
 足音の一つも立てずに、傍まで行き。

 上質の紙の上、途中から遊んでいる墨の線。
 興味本位で覗き込んだそこに。


 左近へ


 流麗な文字で、丁寧に。


 左近、元気か。
 こちらは戦以外、特に変わったことはない。

 今俺のいる場所は、居心地が悪いわけではないが。

 佐和山に帰りたい。
 佐和山に帰って、お前と 一  に


 そのまま、隣に腰を下ろし。
 髪に触れてやれば、


「さこ、 」


(ああ、そうか、)


 お前は。





 願わくは、この想い届かぬことを


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