朝、冷蔵庫を開けると、買った覚えのない果物が入っていて、三成は首を傾げた。
 棚の中央、鎮座して存在を主張するのは、有名産地のラベルが貼られた大粒の苺と、それをより美味しく食すためのチューブ入りの練乳。それからこれもまた有名産地のラベルつきの葡萄。手に取って値段を見ると、正気の沙汰とは思えない額で、眠気も一瞬にして吹っ飛ぶ。
(…あいつ……)
 至って普通の庶民の感覚を持つ自分は、ボーナスでもない限りこのようなものを買ったりしない。故に、犯人は自ずと決定する。ため息をつきつつ寝室の方を振り返れば、丁度。
「―――三成」
「………曹丕」
 長い栗色の髪を大雑把に束ね、あくびをする人こそ、犯人。
 上半身には何も纏わずジーパンだけをはき近づいてくる彼に頬を膨らませつつ、無言で押収物を指差すと、「ああ、」と悪びれもせずに供述をする。
「気が向いたから買ってきた」
「気が向いたからって、こんな高いものを……っ、普通にありえんっ!」
「普通にあるだろう。……大体、お前には一銭も求めていない。私が何を買おうと私の勝手だ」
「それは、……そうだが……」
「お前と共に食べようと買ってきたのだ。文句があるか」
「……ない」
 折れたのは取り調べをされる側ではなくする側で、無罪放免となった曹丕は勝利の笑みを浮かべて、敗北した三成の狐色の髪を撫ぜた。
 五センチ下、僅かに不満顔の同居人――否、同棲人の耳元、「その苺と葡萄を朝食にしよう」と呟く。「耳元で喋るな阿呆っ」全力で振り払い、冷蔵庫から苺と葡萄を引っ張り出して、三成はシンクへ向かう。残された練乳を手に、一足先に食卓についた。




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