「別に構わぬが、な」
 長い、長いため息と共に、零れた落胆。
 明かりなき部屋の隅で丸くなった夜着。
 とてつもなく淀んで湿った空気。
「私に何の断りもなく主の元へ帰り加えて一晩留まろうとそんなこと問題ではないのだがな、三成……?」
「あ…いや…だからその…曹丕……」
 怒り問い詰められるならまだしも。
 遠回しにちくちくと、最も嫌な拗ね方。
 己が原因で招いた結果。
 あれこれと謝罪の言葉を考えながら。
 苔でも生えそうなその隅へと近づき。
 膝に手をつき中腰に、柔らかく声をかける。
「秀吉様が急に帰って来いと言うから、お前に断りを入れるのを忘れてしまったのだ。…だから、すまぬ……」
「…フン、どうせ島の左近とやらと交わってきたのだろう?」
「まじ………違う! 左近は大切な同志だ! 変なことを考えるな!」
「…ああ、私も甄の元へ行けばよかった。曹子桓一生の不覚だ」
「―――…っ!」
 己のいない時に、情を交わす姿を思い浮かべ。
 思わず抱き寄せた背。
「…嫌だ!」
「………三成?」
「俺が愛してるのは曹丕だけだっ!」
 腕に、声に込めたあらん限りの力。
 淀みも湿気も吹き飛ばすほどに。
「……三成、うるさい。それから、腕が、苦しい」
「あ、すっ、すまぬ」
 音量を下げ、抱擁を緩めれば。
 ぽつりと。
「その言葉、信じていいのだな…?」
「…勿論だ」
「…ならば、行動で示せ」
「お前が、望むなら」
「あそこで」
 頭を膝元に埋めたまま、指差した先。
 妙に整えられた、寝台。
 何度目を瞬かせても、示す場所は変わらず。
 顔を上げ、振り返ったその口の端が、笑う。
「構わぬのだろう?」




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