主をなくした城は、その後を追うかのように急速に風化している。
主の持つ禍々しい妖気が、城の大黒柱だったのかもしれない。半月前には何万という異形の者たちがひしめいていたそこに、今は物音の一つもない。
「ここが、最後の部屋だねぇ」
「ああ」
「…ここにも何もなかったら、どうするつもりだい、曹操殿?」
「なに、今しばらく、この奇妙な世界を楽しむだけよ」
城は、廃墟同然に成り下がっているというのに。
時も場所も一切無視して創り出された世界だけが、不気味に安定して存在している。
城の主――遠呂智を倒せば、程なくしてこの奇妙な世界も元に戻ると信じて疑わなかった、三國と戦国の英傑たち。
しかし待てども待てどもやって来ない、分離の時。
故に、曹操とねねは古志城にいる。
世界の歪みを正す手がかりがあるとすれば、ここ以外にない。城全体を一日で捜索できる数の兵を動員し、徹底的に探させてはいるが、まだ芳しい成果は上がっていない。
そして今、二人の目の前にある部屋が、最後。
建てつけの悪くなった戸を開けば、埃が舞うと共に、僅かに香の香りがした。
「どうやら、妲己の部屋のようだな」
「そうだねぇ」
埃を手で払いながら、ねねが足を踏み入れた。今まで見てきた部屋と異なり、小洒落ている。壁に下げられた数々の玉。どれも大粒でごてごてしていて、お世辞にも上品とは言えない。その真下、積み重ねられた書物。何故か少しも埃を被っておらず、一番上のものを手に取って試しに繰ってみる。
「………ちょ……曹操殿っ、…これ……!」
「どうした?」
言葉を失うねねの後ろから、曹操が問題の白い書物――否、パンフレットを覗き込む。
「………これは、」
三國の覇王が、至極愉快そうに口の端を持ち上げた。
一生に一度の挙式は、華やかに――――