雪が降っている。
 時空の歪んだ世界の創造主が倒されてからというもの、延々と降り続いている。
 かつて創造主との壮絶な戦いが繰り広げられた幾多の戦場の屍や赤を覆い隠すように。そこに散った無数の魂たちを浄化するように。
 三国の世と戦国の世の英傑たちが手を取り合って平和を掴んだのだ。大きな戦はもうない。天下など定まっていないが、誰もが穏やかな暮らしを始めつつあった。
 創造主が消えてもなお形を留め続けている、この奇妙な世界の中で。
 ある中規模の城下町で、彼らは暮らしていた。
 早朝、隣に眠る同居人を起こさぬように布団を出て身支度をし、市場へ向かうのが彼の日課である。朝と雪とが織り成す凄まじい冷気に、黒の衣一枚。その漆黒に彼の白い肌がよく映えている。
「……寒い、な」
 すでに赤くなり始めた細い指に息をかけて擦りながら、ざくざくと新雪を踏んでいく。
 賑やかな市の方へ。




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