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『もしもそれで、私は生きてリヴァイが居なくなったらどうすればいいの?』





何だよそれ。
何だよその言葉。
勘弁してくれよ。
正直もう見てられないんだ、お前のこと。

生き甲斐ってのは誰にでもある。
それは分かるけどさ。
でもこんなの、こんなの見せられて聞かされたら、俺はお前に笑いかけられなくなっちまうんだ。



知らなかったよ。
さゆき、お前そんな風に笑えるのか、そんな風にしゃべれたのか?
本当は、そんな風に泣きたかったのか?

どうして俺たちにはやってくれなかったんだって、どうしようもなく思っちまう。



ぺとらの言う通り、共通点は背の高さくらいだった。
あいつが纏ってる雰囲気は俺なんかじゃなく、どちらかと言うと土方さん似かな。
殺伐としていて、冷気を漂わせて。
縄張りに入った敵には容赦ない制裁を加える的な感じだな。

ごめんさゆき。
俺、二人が自分達の故郷に帰ること本当は良く思えねぇんだ。
だって、失敗したら、さゆきは死んじまうんだろ?
そんなの、そんなの送り出せるわけねぇじゃん。


なのに、さゆきはいつも通りなんだ。

『おはようございます、ヘイスケくん』

死番の日が来たら死ぬかもしれねぇのに、変わらない。
・・・さゆきは強いな。

俺、そんなさゆきに惹かれたところもあるから、責められないし諦められないんだと思う。

「朝餉出来たから呼びに来たぜ!りばいは?」

『あ、ごめんなさい、まだ寝てるんです』

「じゃあちょっくら起こ──『あ、私が起こしますよ!』──お?そうか?」

『はい、寝起きが一番低血圧なので。この前エレンくんも苦労してましたから・・・私が引き受けますね』

それを聞いて、俺は頷かざるを得なかった。
“お前なら平気なのか、りばいは起きるのか?”なんて、愚問なんだろうな。
んな幸せそうな顔すんだもん。

「はは、そっか」

ずりぃなぁ、さゆきは。
俺まで嬉しくなっちゃったよ。














「あいつらが逃走した。・・・さゆき、りばい、白髪赤目の人間を見つけたら、心臓を貫くか頭を切り落とせ」

「そうしなきゃ死なねぇってのか?」

土方は口を開きこそしなかったが、否定もせず。
ただ静かにりばいの目を見つめた。

本来なら幹部だけしか動かさないこの緊急事態発生時に、サユキとリヴァイの名を指して指示を与えるところ、土方はよく二人のことを理解している。
そして彼の意図を汲み取り、それ以上何も聞かずに頷いたリヴァイもまた、似た者だろう。

土方は敵を殺す方法を教えたが、リヴァイとサユキはどちらかと言えば殺されかけなければならない。
しかしサユキはついに訪れたこの機会に、死は感じなかった。

白髪赤目の人間、彼女は一度目にしている。
此処での生活の始まりが彼らなら、終わりも彼らになるのかもしれないと感じていた。

しかも今回はリヴァイも一緒だ。
彼に剣が降り下ろされたならそこにサユキが滑り込むこともその逆も、手筈は整えているわけではないが必至も同然。
ならば何も恐れるものはないだろう。

彼女にとって一番怖いことは、リヴァイのいない世界なのだから。




服を着替え、立体機動装置をつける。
初めて此処に来た日のことを思い出すと、胸が少し苦しくなる。
息を吐いてから門へと向かうと、千鶴が駆けてきた。
既に涙を浮かべて自身の手を強く握る彼女に、サユキは優しく笑った。

千鶴の胸元に置かれた、その手に自分のものを重ねる。
そうして、ゆっくりと解すように彼女の指と指を解いた。

『そんなに強く握ってしまったら、せっかくのチヅルちゃんの手が痛みます。貴女の手は、新選組に欠かせない手。大事にしていただかないと困りますよ』

「・・・っ、ごめんなさ・・・っ、・・・さゆきちゃ、本当に、行ってしまわれるんですか??」

『・・・はい。でもきっと、また会えますよ。空は繋がってますから』

どこまでも温かい彼女の笑みに、千鶴は唇を噛むと、手を頭の後ろへ回す。
刹那、黒髪がはらりと肩へ背中へ滑り落ち、赤紐がサユキの目の前に現れた。

目を丸くするサユキに、千鶴はそれをおずおずと差し出す。

「・・・・・・さゆきさん、これ、貰ってください」

『え、』

「私、さゆきさんが憧れの人なんです。貴女みたいになりたい。でも少し、遠すぎるんです。・・・だから、これを持っててくださりませんか?」

“ちょっとだけ、目指しやすくなるんです”

恥ずかしげに頬を朱くし、はにかむ千鶴。
サユキは両手で朱紐を受け取り、手首に決して離れないようキツく巻いた。
片結びもして手から滑り落ちないのを確認すると、千鶴にも見えるように肘を曲げて月明かりに照らす。

『ありがとうございます。大事にしますね!・・・私も、チヅルちゃんのように強く優しくステキな女性でありたいです。チヅルちゃんが憧れる私と云うものを、保っていきたい。本当に、お世話になりました』

ペコリと頭を下げると、千鶴は耐えきれずに涙を落とした。
目があったペトラと藤堂に軽く微笑むと、二人は千鶴の肩を撫でる。

「サユキ、・・・向こうで会えるんだよね?」

『はい、向こうで会いましょう、ペトラちゃん』

「分かった、先にいって待っててね」

『・・・約束、です』

小指と小指が絡まる。
キュッと結ばったそれも、もう落とすことはないだろう。


藤堂は千鶴を励ますと、サユキに話しかける。

「さゆき、そろそろ行こうぜ!」

彼の言葉に頷いて二人で最後に留守役を任された近藤や井上らに挨拶をし、サユキはだいぶ時間をかけてリヴァイの隣へと戻った。

先頭の土方に近づこうとする魁先生を、サユキは慌てて呼び止める。
そして悩みながらも、藤堂へ提案した。

『ヘイスケくん、一つお願いして、いいですか・・・?』

「ん?」

『チヅルちゃんは、私の大切な友達ですので、・・・彼女を時折、気にかけて下さりませんか?』

赤い紐から移された視線に藤堂は胸中一抹の困惑が産まれたが、直ぐに白い歯を見せる。
太陽のような笑顔に、サユキはホッとして答えを待った。

「分かった!任せとけって!」

『ありがとうございます、ヘイスケくん』

藤堂は大きく頷いて、土方の元へ戻る。

『それでは、行って参ります』

彼女が翻した浅葱色が、深く深く千鶴の脳裏に焼き付いていった。




そして守るために、背を向けた。



(お前が守ってていうなら、守るよ)
(俺はさ、やっぱりさゆきが好きなんだから)

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