それは任務の途中のことでした。
任務内容は、ハンジさんの調査対象となる新たな奇行種の捕獲。
生け捕りのため、今回は日没と同時に出発し、夜間中に任務を遂行。
市民が起き上がる前、つまり日の出前に帰還する作戦でした。
巨人の生け捕りは、危険性の面からあまり歓迎されるものではありません。
新米の兵士や市民に知られては後々めんどくさい、という考えから、過去の捕獲任務の際にもエルヴィン団長とリヴァイ・・・兵長、と、彼らに選抜された約十五人ほどで臨みました。
そして今回もそれは一緒です。
団長とリヴァイ兵長はもちろん、私サユキ、ハンジさん、ミケさん、エルドくん、ペトラちゃん、オルオくんを含む総勢十三人で陣形を作り、夕刻六時半、夜間の壁外調査として壁の外へ出ました。
「サユキ」
私を呼んだ兵長は、幼なじみです。
さっきはリヴァイ兵長なんて他人行儀な呼び方をしましたが、本来は呼び捨てする相手です。
ペトラちゃんやエルドくんは未だに私が彼女たちの近くでリヴァイを呼ぶとビクリと体を揺らします。
そんなに彼が恐いのでしょうか?
オルオくんは格好つけて、一度私のようにリヴァイを呼び捨てで呼んだことがありますが、そのあとオルオくんが半泣きで姿を現したのを見てからそんなことは一切しなくなりました。
エルヴィン団長は、何に気を遣っているのか毎度私をリヴァイの側に配置させます。
隣で馬に揺られるリヴァイを見ると、何時にも増して真剣な顔で私を捉えていました。
『どうしたの?』
パカ、パカン、パカッ。
馬の蹄の音に耳を澄ましながら、聞きなれた彼の言葉を待ちます。
『・・・リヴァイ?』
言いたいことはバッサリ告げるタイプの彼が、何故か私を見たまま黙り込んでしまいました。
時々、こういうことがあるのですが。
そういうときは大体言うのを諦めることが多く。
こんなに沈黙が長いのは初めてです。
『えっと・・・・・・、リヴ「ひとつ、約束しろ」っ、あの、リヴァイ?』
やっと口を開いたと思ったら、馬を横に歩かせて私の馬、リンとピッタリくっつかせてました。
任務中にも関わらず、結構近い距離で驚いていると、頭に軽く物が触れます。
それがリヴァイの手だと気づくのには、瞬きする間も必要ありませんでした。
「俺の傍を、離れるんじゃねぇぞ」
───────ごめんなさい、リヴァイ。
約束を破るつもりなんて無かったのですが・・・。
『ここ、どこ・・・』
見渡す場所には木も、レンガも、リヴァイも無い。
因みに巨人も見当たりません。
確か、奇行種を掴まえる際、立体機動装置のワイヤーを手で握られて・・・。
それで、リヴァイが「サユキ!!!」と叫ぶ声が聞こえてからの、
『記憶、なし・・・です・・・』
石で出来た低い壁。
見知ったものは何一つありません。
『う・・・、リヴァイ・・・』
不安で不安を埋め始めたとき。
『───ッ!!!』
嫌な臭いが、感覚を奪いました。
これは、巨人と闘ったときにしか嗅がない臭い。
ここから姿が確認できない、ならば三メートル強の巨人がいるかもしれません。
巨人を追えば、リヴァイだって・・・。
『っ、リヴァイっ・・・!!』
約束事が決まったら、
(巨人に襲われてる人よりも)
(彼の方が気になっている私は、)
(相当悪い子ですね。)