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「#年下攻め」のBL小説を読む
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#19

「サユキ。来い」

寝る場所や此処での生活の決まりが説明されたあと、沈黙が訪れる前にリヴァイが立って私を呼びました。
共に部屋を抜けると、彼は振り向かずに歩いたまま話を始めます。

「飛ばされたあと、直ぐに此処にいたのか?」

『・・・うん。気づいたらこの国にいて、それから縁あって此処にずっとお世話になってるよ』

白髪赤目の奇妙な人間のことを咄嗟に隠しても、リヴァイは気づきませんでした。
あれは私の知ってはならない新選組の秘密です。
そして恐らく、私たちが関わってはならない者です。

リヴァイは息を吐き、イグサの匂いに包まれた一つの部屋の前で止まりました。
私の予想通り、彼はこの文化を好んだようです。

話によると、彼もエレンくんを連れた任務の最中に此処に飛ばされたようです。
数ヵ月前に負った足の傷は、彼の技量と精神力を裏切ってしまって。
リヴァイを庇ったエレンくんと共に、巨人を目の前にしていたのに、目を開けたら知らない土地に立っていたんだそうです。

そこを通りかかったヘイスケくんとオキタ様が彼らを保護してくれたのは、一刻ほど前の出来事でした。




私が此方に飛ばされてから、約四ヶ月。
ですが、リヴァイたちの国ではそれ以上に時は過ぎていました。
久しく見ていなかった背中は、少し横幅が減った気がします。

『リヴァイ・・・?ご飯、ちゃんと食べてた?』

「あ?・・・・・・まぁ、食ってた・・・」

『嘘。痩せたよリヴァイ。駄目だよちゃんと食べてくれなきゃ・・・』

「・・・・・・。」

『ねぇ、お願いだから、聞い──っ、』

彼の服の裾を後ろから引っ張ると同時に、これまで振り返らなかったリヴァイが私の頭を肩上に押さえつけました。
懐かしい匂いがふわりと漂って、思考が全て覆ってしまわれます。

このとき、あくまでただの想像にしか過ぎませんが、私はあの任務の日の、あの約束の瞬間をやり直しているような気がしました。

その腕前を千の兵士以上と称される彼は、人一倍勘が冴えます。
あのとき彼は、私に何か起こるかもしれないと感じていたのかもしれません。
急に約束を取り付けた理由が、今更ながら分かりました。
彼が馬に乗っていなければ、あの瞬間もこうやって私を抱き締めてくれていたのでしょうか。

『リヴァ───「聞いてやる」

リヴァイと同じ程度のか細い息が私の喉を通って、ひゅうっと音を鳴らします。

「一回だけだ。人目なんて気にしなくていい、今だけ泣かしてやる」

声より先に、涙が彼の肩を濡らします。
先日も先刻も泣いて、充分水分を失ったと思っていたのに。
何処からか沸き上がった水に私の涙腺は耐えきれなくて、もはや戦意すら失くしたようです。

『・・・怖かっ、・・・怖かったのっ。リヴァイが居ないなんて、』

最初は、あまりに彼と居たせいで、私は一人で生きる方法も知らなければ、彼を探すことが三度の飯よりも優先すべきことでした。
右も左もわからない赤子になったように、リヴァイの居ない生活は八方塞がりといっても過言ではありません。

それから暫く経って、だんだんと心と思考が適応してきましたが、体はそうもいきませんでした。
ペトラちゃんたちが此方に来てくれても、実は寝付きが悪く、食事も上手く喉を通りませんでした。

何とか隠しきれていたようですが、疲労が蓄積されていく己の体には限界すら感じはじめていたのです。


『私っ、ダメだよ・・・!リヴァイがいないと、ダメなのっ、・・・生きてすらいけなくて・・・っ、』

こんな自分は調査兵団にもリヴァイの幼馴染みにも向いていません。
なのに、誰一人私を責めてはくれなくて。
それどころか受け入れて、それが“私”だと教えてくれて。

『皆さんが、優しくて・・・っ、益々リヴァイに会いたくなって・・・っ』

色んな方と触れあう度にどんどん増していく、私の中のリヴァイの存在。
そして同時に、彼の知らない部分がこの間にも次々生まれてくると思って感じるのは、恐怖以外の何物でもありませんでした。

訓練兵になって、調査兵団に入隊すると打ち明けてくれたいつかのリヴァイを見て、遠く感じたあの日の二の舞だけは避けたかったんです。
またその時のように突き放されてしまう気がして。




「・・・行くな」

ボソリと独り言のように告げられた本心。
彼の顔を確認出来ない体制だからこそ言えたものです。

「今度こそ、破ったりすんじゃねえぞ。・・・もう、勝手に行くな」

天才とバカは紙一重とはよく言ったものです。
リヴァイの背中に回した手で彼の服を強く掴んで、私は笑ってしまいます。

そんなこと言わなくても、貴方を好きで手放すなんて一生出来るはずがないのに。

『ふふ、わかってる。私も嫌だから、離れないよ。何があっても、離れられない。リヴァイこそ私を置いていかないでね』

私が貴方を遠ざける理由も、貴方の傍に居ない日も。
どちらもきっとこの世にはもう存在しないと、そう信じています。


『迎えに来てくれてありがとう』

「・・・帰り方は知らねぇけどな」









今生の想いを繋げよう。

(私は貴方で、貴方は私。)
(そんな方程式があれば良いのに。)

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