「守ってやる」と言ったのは、ヒジカタ様でした。
「ありがとうございます」と笑ったのは、私です。
「離れるんじゃねえよ」と顔を覗き込んだのは、リヴァイでした。
「知ってるよ」と苦笑したのは、私でした。
言葉は違えど、二人が言ったことは同じ内容。
一つ違うとしたら、約束かどうかという問題です。
私は、リヴァイとの約束を守ることが出来ませんでした。
何年も、何年も何年も培ってきたはずだったものが、一瞬で崩れてしまったんです。
破るつもりも、無かったのに・・・っ。
だから、だから私は、同じ意味のヒジカタ様の言葉にとても安心したのです。
約束じゃないのならば、約束を破ることもありません。
裏切りで人を傷つけることはもう、したくなくて。
ヒジカタ様の言葉は、リヴァイと同じ温度で、音程で、感触で。
純粋に、嬉しかったんです。
人に人を重ねて、私は自分を保っていました。
ソウジさん──オキタ様には、頭を下げました。
ハラダ様に教えてもらった、彼を一番傷つけずにすむ方法は、私が消去法で真っ先に消したものでした。
リヴァイは特別だと、それを告げると、オキタ様は私の想像とは全く裏をかいた顔で笑いました。
「・・・うん、知ってるよ。僕の方こそごめんね、さゆきちゃん」
『オキタ様はっ、悪くありませんっ!』
「ううん、僕もさゆきちゃんも、同じくらい悪いよ」
彼はこれまでで最高に優しい笑みで、「だからおあいこね」と言います。
私は馬鹿で、どうしようもなくて。
故に『ありがとうございます』と折れざるを得なくて。
でもそんな私を、オキタ様は私らしいなぁと誉めてくれました。
「こんなときに謝るんじゃなくて、御礼を言ってくれるんだからさ。ま、そんなさゆきちゃんが好きだよ」
此処に来て、私は初めて自分が好きになれた気がしました。
ハラダ様とオキタ様が好きだと言ってくれた自分を見つめ直して、照れくさくなったけれど、私の中身を一つ知った気がしました。
自分が一番自分を理解している。
随分前に誰かが豪語していた内容を、私は信じていません。
近いところにほど死角があります。
恐らく、私とリヴァイはお互いに相手の死角を捉えていて、補い合っていました。
私が知らない私は、リヴァイが知っていて。
リヴァイが知らないリヴァイは、私が知っている。
私が知らない私の部分は、リヴァイのそれよりも多かったと思います。
けれど、新選組の皆さんと過ごした時間で少し埋められたのでしょう。
弱い自分も、強い自分も。
ちょっとずつ、私の輪郭をなぞると、益々此処に来て良かったと思いました。
『・・・・・・・・・。』
「・・・さゆきさん?」
目の前が、真っ暗になって。
せっかく掴んだ私の形がだんだん見えなくなっていきます。
それでも悲しくないのは、長い間閉ざされていた光が私を優しく照らしてくれていたからです。
中から聞こえた声以外を、私の耳は拾おうとはしません。
体が動かなくて、この扉を今すぐに開けたいのに、手に力が入りません。
白い紙越しに見えた影が近づいてきて、なんとも言えない感情が競り上がって来ました。
───嗚呼、やっぱり、彼が必要なんだ。
スローモーションで動く影が、廊下と部屋の隔たりをどんどん溶かしていきます。
「─────生きて、やがったか・・・」
視線や、声や、体が重ならなくても。
その存在が目の前にあるだけで、構わないのです。
あなたを味わえたならば、準備は万端。
(私は、)
(あなたが居て、ワタシになるのです。)