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#10



最近目にするのは木々の鮮やかな緑と、袖捲りをするオルオくん。
そして、ペトラちゃんとヘイスケくんの並んだ影でした。

「・・・ねぇさゆきちゃん」

『どうしました?』

「平助くんとぺとらちゃん、この頃よく一緒にいるよね?」

『・・・』

チヅルちゃんとは先日の一件以来、めっきり距離が縮まり、普段の仕事がもっと楽しく感じられるようになりました。
そんな中、彼女の見つめる景色も少しずつ分かってきました。

「かわいいよね、ぺとらちゃん」

『・・・あの、チヅルちゃ、』

箒をギュッと握りしめ、遠くの金色を眩しがる彼女。

ヘイスケくんの気持ちなんて彼にしか分からないはずだから、チヅルちゃんの考えすぎだと言いたかったのですが。
ヘイスケくんの想いの先はペトラちゃんではないというきっぱりとした言葉以外に、彼女の心は晴れないでしょう。
慰めだけだったり、中途半端に汚れた布で拭いても。
きっとチヅルちゃんは残る汚れに私に苦笑を返すだけだと思うのです。

『・・・・・・チヅルちゃん』

「うん」

『少し風が吹いてきそうですから、一足早く中に入りましょうか』

「・・・うん」

何の根拠もない天気予報を理由に、私はチヅルちゃんを連れて縁側を越え、部屋の中へ戻りました。

太陽が西へ少し傾くこの時間帯は、部屋がうっすらと暗がります。
ショウジを閉める音が空気を斬り、チヅルちゃんの眉が下がりました。

「さゆきちゃんは、りばいさんのこと、特別に慕ってる?」

『へ?慕う・・・、ですか?』

「うん」


何時になく真剣な顔。
代わって私は、すっかり拍子抜けしてしまいました。

特別に慕うというのはきっと、・・・そういうことで。
自覚の有無という話の前に、私はどのようなものが恋慕の表れなのかすら分からないのです。

『・・・どう、でしょう。確かにリヴァイは他の男性とは違いますが、それは幼馴染みであり昔の誼みがあるからで・・・。チヅルちゃんのいう、特別な慕いとは言い難いのかもしれません』

「えっ?!そうなの?!」

正直なとこを申せば、チヅルちゃんは色を変えて驚きました。

「てっきり、さゆきちゃんとりばいさんは寧ろもう恋仲なのかと思ってたのに・・・」

『こ、恋仲ですか?』

「だってりばいさんが生きるために必要なら、夫婦にならないとずっと一緒になんていられないんじゃないかな」

『・・・・・・・・・』





*********




「だから、リヴァイ兵長とヘイスケはかけ離れてるんだって」

「そ、そんなに離れてんのか?」

「似てるのはその身長ぐらいだよ」

「うわーー、まじかぁ」

所代わって、ここは屯所の庭内の長椅子。
といっても名ばかりのこの椅子は二人が腰を落ち着かせるので精一杯なものである。

ペトラと藤堂平助はそこに並び、お互い得物を手にかれこれ三十分くらい話していた。

「ちぇ、ちょっとでもさゆきの理想に近づきたかったのに・・・」

「てか、そもそもサユキを手にいれるなんて無理な話よ。サユキと兵長の絆と愛は太くて深いんだから!!」

藤堂平助はますます口を尖らせ、空を見上げる。
太陽は少し傾いで、雲は一つも無く直接降り注ぐ光線が影をいっそう伸ばした。

「・・・そんなに、サユキはりばいがいいのか・・・」

「・・・あ、ごめんヘイスケ・・・。その、傷つけるつもりはなかったんだけど、」



「兵長!!」

「どうしたペトラ」

「サユキが、街で絡まれてて!!」

「あ?そんなもんあいつなら自分で、」

「男数人に連れてかれちゃいました!!今エルドが追って────兵長?!」

「っ、・・・ぁんの馬鹿野郎・・・!」





「・・・でも、やっぱり、サユキには兵長が必要だと思う・・・」

「・・・・・・そっか」

眉を下げた藤堂平助の顔を、ペトラは直視出来なかった。



一つ、二つ。
小さな恋が堕ちる音が耳に響く。
伸ばした手は数センチ足りず、指先を掠めて、こちらは音もなく割れた。




長い指では絡まって、


(リヴァイは、)
(平助くんは、)
(さゆきは、)



(((近くて遠い存在・・・)))

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