平日の部活終わり。監督に伝えて急遽休みとなった木曜日、関口と共に入ってきた彼女は俺に無理矢理連れ込まれた灰崎を見て大層ご満悦である。まーたそういう笑顔を易々とオメーは……。
赤司、緑間、青峰、紫原、灰崎、黒子、黄瀬、そして桃井。久保田と一緒に来た俺も含め、既にみんなジャージ姿だ。関口と凪沙も部室で着替えてきたらしい。そうしてソイツは、2回叩いた手を真上に腕ごと広げて高らかに叫ぶ。
『チキチキ!! ミニバスたいかーい!!』
「いや、なにがチキチキ? ってかチキチキってなんだよ」
『今回はー、「無視かよ!!」私とさつきが “取っとりけ” をして作ったチームで試合をやってもらいまーす。賞品はないけど負けたチームには全員罰ゲームがあるんでしっかりやんないと明日の自分が泣いちゃうぞっ(ホシ)』
隣の関口を空気として扱う凪沙は体育館の真ん中に立ち、横にしたピースサインから片目を覗かせる。「キモ」って言った灰崎にはそもそも明日が来ないかもしんねーな。強く生きろ。
「すみません。とっとりけ、とは?」
『そんな赤司様の為に早速やっていきましょう! さつきは分かるね?』
「え、あ、はい! でもあの、私が選ぶんですか?」
『そう。私とさつきの選抜チームで闘わせる。いいかい、取っとりけはじゃんけんをして、勝った方から好きなモノを選んでいける決め方だよ』
桃井を手招きして呼び、まだ困惑している彼女と一緒に言わずと知れた合図 “ではないもの” を口ずさむ。『「とっとーりけ!」』向き合うのは、パーとグー。桃井の勝ちだ。
『んじゃあ、思いきって1人目をどうぞ! あ、ペナルティは後で発表しますよ〜』
桃井は自分の手のひらをおろおろと見つめていたが、凪沙がつらつらと口にする後押しで最初の1人を決めたらしい。
「て、テツくんで!!!」
「え、僕、ですか?」
「は、はい! お願いします!」
「分かりました。桃井さんを勝たせられますよう、頑張りますね」
にこりと笑って立ち上がった黒子は、凪沙が桃井の横に座らせる。そのチョイスは赤司と緑間以外の癪に若干触ったようで、彼らは珍しく目の色を変えて少し姿勢を正した。まぁ確かに、黒子は相棒となるような特攻型がいないと機能しないからな。
お次は凪沙の番で、俺も直ぐに立ち上がれるよう準備をしていた。選ばれると、当たり前のように思ってた───が。
『さて、我がチームにはまず、灰崎───キミが欲しいな』
「「はぁッ!?」」
ハモる声に自分のものが混じってて、口を手で覆う。全員の視線が集まったことに言い知れぬ恥ずかしさと悔しさが込み上げてきて、とりあえず俯いた。くっそ、なんで灰崎?? こんだけ傍にいた俺との間に何もないとは言わせねーぞコラ。
「な、なんで灰崎なんスか!?」
『作戦に必要だから』
「俺もお役に立てるッス!!」
『んなにSFばっか置けるかバカタレ。はいさつき、2回戦目行くぞ〜、とっとーりけー』
───おっしゃあ! くぼやんカモン!
テツくんがいるならやっぱり青峰くんがいるよね、はぁ……。 テメェさつき! なんのため息だよ!!
えっと、赤司くんお願いします! あぁ、宜しく頼むよ。
くっそ取られた! まぁいいさ、緑間くーんご指名入りまぁ〜す。 鳥肌がすごいのだよ。
んんん……きーちゃんで! 待ってましたよ桃っち!
さつきじゃんけん強くね? ムラサキおいで。 めんど〜。
そうして、ついに最後のじゃんけんとなった。それを制した凪沙は『うっわこの2択かよ。ちょい待って』と後ろのメンバー編成を確認し出す。オイコラどっちがちょい待って? 悩む必要ある? 関口と俺だぞ? どう見たって選択肢は1つだろうが!!
『仕方ないな、本来赤司がいるべき場所ではあったけど……ぐっちー、君に決めたよ』
「「なんでだよ!!!!」」
腹抱えて笑ってる灰崎後でブン殴る。
『というわけで修は自動的にさつきチームね。はい、取っとりけ終ー了ー。10分作戦時間取った後にペナルティ発表して、そしたらゲーム始めまーす。今回は50点先取方式ね。一応15分毎にインターバル取るけど、時間無制限だから』
とりあえず解散! の言葉で、さっさと隅による様子を呆然と見送る。久保田は同情の笑みで俺の肩を叩いてから追い、関口は気まずそうに目を逸らして久保田の後に続いた。
「バカ白幡!! なんで虹村選んでやんないんだよ!」
『元より取るつもりはなかったよ? アイツいたら灰崎が機能しなくなるからさ。あそこまで選ばれなったのは想定外だけど」
「いや、完全に桃井が気ィ遣ってくれてたんですけど!」
『あぁ、中途半端に選ぶんじゃなくて最後に持ってくることで残り物には福がある的な効果? さっすがさつき出来る女!! 』
「ちっげーよ!!!」
聞こえてくる関口との会話に、沸々とどす黒いもんが沸いてくる。何故か謝ってくる桃井には精一杯の笑顔を返した。
「何で謝んだよ。問題ねぇ。今に見てろ、俺を選ばなかったこと後悔させてやらァ……」
「「ヒェ」」
「落ち着いてください虹村さん」
「桃井さんは未だしも黄瀬くんまで怯えないでください」
「いいから早く始めようぜ! 超楽しくなりそうだ!」
10分の作戦会議は桃井の持つデータと赤司の戦略を元に進む。一番の問題は紫原の鉄壁な守りだ。緑間にボールを回さなければ点数はそんなにバカスカ入れられないが、紫原にボールを奪われて2人のパスが通ればあの超ロングシュートを止める手立ては少ない。そして何より、監督が凪沙ってとこに問題がある。経験が無いからこその発想に対応できるかもネックだ。
俺たちは大分特攻に片寄っている。紫原と久保田の両方が取られたのは痛かった。そういう訳で、とりあえずひたすらボールの所有権を持ち続けるのが最良だろう。攻撃が最大の防御だと全員の方針を固めた頃合いに、作戦タイムが終わった。
『ペナルティー発表しまーす。まず赤司、負けたら3日間放課後に女装な』
「はい───ハイ?」
『次、緑間。3日間おは朝アイテムな「絶対に死ぬのだよ!! それだけは勘弁してくださいなのだよ!!」え、そんなに? じゃー私の分もアイテムを用意してくるのだよ』
「………………あとで星座を教えてください」
『ムラサキ、3日間お菓子禁制。食べたら日にちが延びていくのでそのつもりで』
「嘘でしょ? マジで言ってる? 死ぬんだけど」
『緑間と比べて切実さが足りないので減刑はしません。次、黒子。敬語無しの生活3日間』
「……割りと難題ですね」
『黄瀬。語尾をゴワスにする生活3日間』
「ごわす!? なんで俺だけそんなんなんスか!? 絶対嫌っス無『さつき。文化祭で私好みのコスプレをする』
「こっ、コスプレ!?」
『青峰。次のテストで平均40以上取んないとさつき監視の下お前の持つエロ本および写真集を全部焼却』
「俺だけレベルが違くねーか!?!?」
『灰崎。───1週間、バスケ部に来てひたすら見学してろ』
「……ハァ?」
『何がなんでも来させるし、何がなんでもボールに触らせないのでそのつもりで。ま、全員勝てばいいんだよ勝てば』
ニヤニヤと笑われて、カラフルズたちは神妙な顔つきを浮かべる。中には肉体的にも精神的にも致命的なものもあるようだから、かなりのプレッシャーになっているようだ。
ふと、久保田が軽く手を上げる。
「3年へのペナルティは?」
『くぼやんは次のテスト期間私と勉強会してください』
「ペナルティ……にならないが?」
『はいもうそういうところが好き。いいの、くぼやんだから。ぐっちーは3日間私のパシリね』
「お前だけ勝っても負けても得すんじゃねーか!」
『修はどうしようかなぁ。3日間私の財布になるか』
「オイコラ言い方。 っつーかオメーだけペナルティ無いのはダメだろ」
『私は東様を視界に入れないという地獄の3日間を送りますのでご心配なく』
「「「「大有りだわ」」」」
凪沙のペナルティは各自考えて必要があればゲーム終わりにみんなで決める運びとなった。
斯くして始まる凪沙発案、チキチキミニバス大会。
そもそも事の発端は、4月以降またサボり癖が見え始めた灰崎に対し、白金監督に事態の解決を求められたことだ。
灰崎の足が再び遠退いた心当たりを問われて刹那、思い浮かんだのは喧しい黄色。ポジションもスタイルも同じだかんな、両方とも敵にいなくて良かったと思うのが他人事ではあるが……。その存在は灰崎にとって大きすぎるんだろう。
だが、ここで新入りの名前を出しても灰崎の闘う意思の無さを強調するだけだしなァ───そんな思考で言いあぐねる俺と打って変わり、隣にいた凪沙はなんて事の無いように答えた。
『ヤキモチですね』
「ヤキモチ」
『はい。まぁそれを感じてくれてるってことはウチの部の存在もアイツにとって小さなものではなくなったってことだと思うんで……、』
凪沙はニヤリと口角を上げて、監督に今回のことを提案をした。
『そのジェラシーを発散する試合をやるのはどうでしょうか?』
「ふむ。白幡がやってみたいのなら好きにしなさい。少しでも部の為になるなら、私は協力を惜しまないよ」
『ありがとうございます! ってことで、尽きましては一日休みを貰いたいんですけど』
「休み?」
『部活ってなると来ないんで、あくまで遊ぶ体でやらせて欲しいんです。あ、体育館の使用許可もお願いします』
「なるほど。終日休みは最近無かったから丁度いい、用意しよう」
と、バッチリ監督の許可も得た会場で、今まさに俺らは2色のビブスで分けられ対峙している。
試合をしてどうにか灰崎のモチベを上げるつもりなんだろうけど、凪沙の立てた作戦を知らない俺としてはこの試合非常に面白くない。敵である故に為せない験担ぎは物足りなさを覚えさせて、何となく虹のバンドを左腕から右腕に付け替えた。
『不正だなんだ言われるのダルいんで、最初のボールもじゃんけんで決めましょう。くぼやん、修、手ぇあーげて! さーいしょはグー! じゃーんけーんポン!』
俺のチョキ、久保田のパー。どちらも見た凪沙はあからさまな舌打ちと共に俺へボールを投げる。あの野郎本当男だったら殴ってたわ。
『じゃ、試合始めまーす。よーい、スタート!』
若干気が抜けるその声で、まずは司令塔の赤司にボールを回す。その赤司についたのはなんと紫原だ。慌ててゴール下を確認する、久保田だ。関口と緑間で青峰を。黄瀬と俺はフリーで、……灰崎は……アァ? 何してんだアイツ。ボールとは真反対、かなり離れた位置にいて、一応腰は軽く落としてるものの、試合中の構えじゃない。ナメてんのか、それとも……。
「虹村さん!」
ドライブで切り返した赤司からボールが回ってくる。チッ、青峰に渡すにはちょっとガードがきついな。紫原は赤司がボールを離した瞬間にゴール下へ移動し始めた。やばい、アレに陣取られる前に久保田を退かして点入れとかねーと、流れを物に出来ない。
腰を落として、体勢を出来るだけ低くしながら突破口を切り開く。悔しいことに俺よりデケー身長の奴らが多い敵チームにスティールしにくいショートドリブルで切り抜けて、目の前にいた久保田を躱してダブルクラッチ。なんとか先制できた───が。
「さすが白幡。言ったとおりだな」
「は?」
「関口!」
これぞカウンター、速攻ファスト・ブレイク。久保田がゴールネットから即座に掬ったボールは、すぐ脇にいた関口にスローインで渡される。久保田の台詞に捕らわれた俺が反応するのは僅かに遅く、関口はそのままスピードドリブルで切り抜けて行く。
「ちゃんと受け取れよ灰崎ィ!」
あっ! ンの野郎……!!
「チッ、何様だよ」
「先輩様だよ!」
最初から、このファスト・ブレイクが目当てだったと言うことだ。しかも、俺の攻撃の流れを予見してた可能性が高い。嬉しいんだか煩わしいんだか。
灰崎は追いかけてきた黄瀬や赤司に応じる暇もなく堂々とゴールを入れる。てん、てん、とバウンドをして転がるフリーボールを片手で持ちながら唇の端を舐める灰崎は、コート外の得点板の方へ視線を遣った。
「これで良いんデスカ、カントクさん」
『おう! バッチリだよショーゴくん!』
ニヤリと親指を立てる凪沙は、同点になったパネルを満足そうに叩く。
『さぁ、やっておしまい!!』
「お前そのキャラでいいのかよ」
灰崎が凪沙に突っ込みを入れる最中、一番近くにいた黒子が赤司にスローインでボールを繋げる。そういえば黒子、最初のポジションから全然動いて無かったな。何して───いや、とりあえず、同じ方法なら一進一退の展開になるだけだ。50点先取だから最悪先制した俺たちが勝てる打順ではあるが、そんな悠長なこと言ってられない。凪沙の言からすれば、アイツらには連続得点の作戦があるみたいだし、俺たちはそれを止めつつ同じ事をしなきゃなんねぇ。
紫原はさっきと同様赤司のマークに入った。今度は関口が黄瀬のマークになり、青峰は緑間だけだ。くっそ、上手いな。青峰に一回スティール覚悟でパスしても、緑間に取られれば奪い返せない。それどころか一気に3点取られる。凪沙め、痛いとこ突いてきやがって……!
とりあえず青峰を動かせるようにしねーとな。まぁいい、相手がマンツーマンを作ってくれるんなら、裏を返せばスクリーンとほぼ変わらねぇってわけだ。久保田が俺についてないのは、さっきみたいに俺を攻撃の要に仕立て上げるつもりだろうが。2度も同じ轍は踏んでやらねぇよ。
「赤司、お前に任せる。好きなだけ動け」
「……わかりました」
それに、こっちには桃井のデータがあり、ゆえに誰がどんな動きを苦手とするのか赤司は知っているし、それを忠実に再現して攪乱させる技術もある。久保田が苦手なものを上手く使って出し抜いてくれるだろう。あとは青峰を解放して、黄瀬と俺の3人で点を入れていけばいい。パスやなんやらは黒子がやってくれ───「すみません、虹村キャプテン」「っうぉわ!?」───考えていた脇から唐突に現れた件の人物に、思わず肩が跳ね上がる。
黒子は試合中、味方の近くにいるイメージがあまり無い。ミスディレクションはスティールやあり得ない角度へ曲がるパスの折り目を作る技術だから、それは勿論の話だ。同様に、こうして試合中に味方と口でコンタクトを取るケースも多くない。話し相手、例えば今で言う俺への注目が黒子にも影響してしまうのを防ぐためだ。だからこの状況は特殊であり、彼の口から放たれる内容もかなり重要性のある内容だった。
「灰崎くんが、僕のマークについています」
「あぁ? 灰崎が?」
「はい。恐らく白幡先輩の作戦でしょうが……彼は洞察力がかなり高いヒトなので、なかなか隙をついて動けません」
───『灰崎の得意技は見た技を自分のものにすること。つまり、それだけ洞察力が優れてるんだよ。たぶん人の気持ちにも、ね』───
監督にこの企画を提案した日の帰り道、凪沙が困ったように言った台詞が脳内で再生される。……なるほど、だから黒子が動いてねぇと感じたわけか。
こりゃあ作戦の練り直しだ。赤司と桃井も気づいてると思うが、どちらにせよ流れを断った方がいい。
ちらりとボールの方を見る。赤司から黄瀬に渡ったボールがネットを通って、ビーッとブザーがなった。それなのに依然として焦る様子の無い久保田はボールを取ってコートの外へ向かう。俺は瞬時に桃井に視線を遣り、合図を送る。得点板を挟んで隣にいる凪沙にも見えていたようで、アイツの方が早くタイムを止めにかかる。
「あっ、タイム!! タイムアウトさせてください!」
『はいよー』
ブザーを一度鳴らし、凪沙から離れた位置に移動した桃井の元に駆け寄った。
「白幡先輩が灰崎くんに用意したペナルティは、今の彼にとってあまり意味がありません。それは恐らく、比較的客観的に試合を見て僕のマークがしやすいようにワザとそうしたのだと思います」
「なら灰崎にマークを増やした方がいいな」
「はい。俺たちがマークされているといった印象を裏返す必要があります。それに、どこかできっと俺たちにチャンスがあるはずです。灰崎にあのようなペナルティを課した以上、白幡さんは僕たちに勝って貰いたいはずですから」
「……だといいんだけどな」
「きっと本心です。だから虹村さんを選ばなかったんですよ。いえ、むしろ選んだ、の方が正しいですね。誰より勝利への信頼が置けるからこそ、虹村さんをチームに入れないでおいたのでしょう」
赤司の見解に、喉と心臓をギュッと絞られた感覚がした。一瞬、上手く息が出来なくなった。寄せられている信頼や期待に、正しく溺れそうだ。試合中なのに、それとは全然関係ないところで緊張してきた。
……元より勝つつもりではあったが、向こうにも願われているとなれば、気の入りようが違ェ。
攻撃が最大の防御なのは変わんないが、少し改め、外側も固める形に変更していく。そうして新たな作戦が組み立て直された後、俺は鮮やかすぎるリストバンドをいつもの位置に戻した。───っし、やっぱりこっちの方がしっくり来らァ。あとは…………。
「わりぃ、勝つためにちょっとやっておきたいことあんだけど」
「! はい、行ってらっしゃいませ!」
察しのいい桃井に良い笑顔で見送られたのは恥ずかしいが、勝利のためには欠かせないモンだと思えば堪えられた。……まぁ、下心もあるけど。
「凪沙」
『おいおい、敵陣にのこのこ入ってくるたァ何のつもり痛たたた!?』
左手で正面の手首を掴み、天井へと吊り上げる。ちょっと低めの声で「手ェ開け、早く」と脅せば、訝しみつつも珍しく素直に従ってくれる。そこに勢い付けて自分の右手を合わせれば、パチンッと聞き慣れた音がした。ああ、そうだ、コレコレ。コレがなきゃやってらんねぇわ。
「じゃ、勝ちは貰ったからな」
『うん……うん!? いや、ちょっと待て!?』
「オイコラナギサ、テメーなにいつもの験担ぎさせてんだよ」
『知らないよ! 向こうが勝手に!!』
「灰崎ィ。部活に出てないこと後悔するくれェへばらせてやるから覚悟しろよ?」
「…………ハッ! 誰がへばるかよ」
わらわらとライン内に戻りだす俺たち。桃井はそんなコートを見て楽しそうに微笑う一方、凪沙は苦笑して右手を見つめてる。
久保田から再開したゲームは、割りと拮抗していたと思う。マークになった俺と赤司に阻まれる灰崎の悔しそうな顔と言ったら! 後で思い出しただけで飯が3杯は食える!
皆の名字が飛び交う仲で何度もブザーが鳴り、だれよりも早く黒子がダウンし始めた。それでも凪沙は中断を選ばず、黒子が下がるのと同時に自分のチームから灰崎を引き抜く。
「なんで俺が!!」
『おっと、やり足りない?』
「当たりま───! ッ…………」
『大丈夫。まだまだ君の出番も居場所もあるからさ』
「…………何の話してんだよ」
『さあ? 何の話でしょう。未来かなぁ』
「……ぜってぇペナルティなんてやんねーからな」
『期待してるよ、灰崎くん。なにせアイツ、しぶといからさぁ。っつーか試合に出たかったらキモいっつったの訂正しろよ?』
「うっわ地獄耳ーー」
『潰す』
そう言って灰崎の股間を蹴り上げた凪沙は───試合中全員が脚を閉じたのは条件反射ってやつな……───その後1週間、毎日放課後に俺を怪我人の元へ送り出し続ける。そうして、端の方でつまんなそうにイライラしながら見学する後輩を煽っては楽しそうに笑うのだった。
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