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テーマ「推しとの恋」
- ナノ -

Until…

─ 味わえたな ─

数時間前はがらんどうだった部屋は、あっという間に段ボールで埋め尽くされた。縦に積み上げてもらえれば良かったと思うけれど、早く片付けさせる意識付けにはもってこいなので良しとしよう。リビングに入れば、業務終了のサインをもらった爽やかなお兄さんと目が合う。恐らく本日のリーダーである彼とは、これまで幾度となく視線を交わした。今も、ニコリと口角を上げてみせるスマイルが眩しい。営業用なのかもしれないが、毎度素晴らしい笑みを向けてくださり大変心が洗われまする。かくいう私のお返しは照れが混じった愛想笑いであるから残念この上ない。
 
「それでは、私達はこれで」
 
『「ありがとうございました」』
 
太陽がまだてっぺんにも到達していない時間に、彼らの仕事は終わりを迎えた。冷蔵庫や洗濯機、テーブルやベッドは全部一人暮らし用のサイズだったので新しく買い換えることになっていて、テレビも私の我が儘で修の家にあったものより2サイズ大きな物になる。先日ビッグキャメラで配送手配をしたそれらは、今日明日にかけて随時配達されるはずだ。重いものといえばクローゼットやオーブンレンジ、あと自室用のデスクくらいなもので、他はすべて段ボールという大分楽な案件をテキパキ片付けてくれた引っ越し業者さんたちは、ペコペコと頭を下げて帰って行った。
玄関にふたりで並んで見送りをして彼らの姿が見えなくなると、辺りがシン……となったのが分かる。時計も大きな電化製品も無いゆえに、本当に無音だ。呼吸音すら響いてしまいそうで、何となく息を潜めてしまう。

これから毎日、この家で、四六時中ふたりきりなのか。そんなことを一瞬考えてしまえば今更ながら緊張と気恥ずかしさがにじり寄ってきた。ここで自分の頬を可愛らしく両手で挟む芸当などなく、平静を装っていつも通りにドアを締めて鍵をかける。ここからは少し落ち着く時間を頂きたい。
別にふたりだけで過ごすなんて初めてなわけもないし、半年ほど半同棲生活をしていたようなものだ。何を改めて気に揉む必要があるというのか。そうだろう勇者凪沙よ!! 横に倒したサ(ム)ターンを摘まんだまま、相変わらずの根性なしを見せる私の心に囁やきかける神たるワタシに、下界から声が届いた。

「…………あ、あの、凪沙サン?? なんか怒ってます……??」

『えっ!? い、いや、何も怒ってないよ!? これはその、鍵が、』
 
かっこ悪いというか、弱みになるような羞恥心の類いを察してもらいたかったわけでもなければ、もちろん下々の民を不安にさせたかったわけではない。ただ何も気にせず先に踵を返して離れてくれれば良かっただけなのだが、思いもよらぬ方向に風を送ってしまった。慌てて否定を口に出す。その後に必要なのは、それを証明するための大嘘だ。鍵を触っていたのだからココに話を付けるべきだと瞬時に判断したワタシはやはり神だったと思う。

「鍵? 壊れてンの?」

『いや壊れてないけど!! ほ、ほら!! この銀メッキが美しいなって!!』

ただ、この世に複雑多様な感情を創造してしまったように、神にも間違いはある。
頭上の、眉も口角も下がった表情からスッと目を逸らす。

「頭大丈夫か?」

『大丈夫デス』

何言ってんだ。銀メッキが美しいって何。ガチャガチャと鍵を締めたり開けたりさせながら意味不明な言葉を発した口を戒めに縛る。もっとマシな内容を喋れるようになろうや、マイマウス。
さて、訝しまれているために気の置所を失ったこの現状をどうやって打破すべきか。ガチャガチャガチャガチャ、クセになりつつあるサムターン回しをしながら悶々としていると、右手を上からガシッと掴まれる。指先が滑って、ようやく音は鳴り止んだ。ビックリしすぎて心臓バクバク言っとるがな。
 
『えっ、なに!?』 

振り返った先の修はどうにもご機嫌斜めで、への字に曲げた唇を軽く尖らせている。……おまえ……、本当にその顔だけは中学から成長しないな……。そして、なぜに無言?? 怖いんですけど。
右手を掴んだのは音が煩かったからとかそういうことだろうか。いや、だったら “うるせぇ” って言え?? なるたけ大きい声で。そしたらお前のほうがうるせぇよからのキャッキャウフフ(※虹村&白幡ver.)で気まずかったこの空気を塗り替えられる。エッこの道筋天才では???

「……ド」
 
『……ど???』
 
自分の危機回避能力に惚れ惚れしていたけれど、落ちてきたのは期待の対極にある小さなものだった。計算外に溢れる意味を成さない音に首を傾げた瞬間、腹のあたりにガシッと腕が巻き付く。同時刻、頭の上に顎が着陸。咽るほどではないにしろ、なかなかの衝撃に『ぐわっ』とアヒルみたいな声が出た。
コイツ、アメリカ行ってから意思表示の割合が言語より身体にメーター振り始めてて本当に辛い。説明は後!! とりあえず身体を動かすぜ!! みたいなのやめてほしい。心の準備時間がなさすぎる。脳筋辛い。
 
『なになになになに!? 鍵がうるさかった!? ごめんて!!』
 
「違う」
 
『違うんかい。とりあえず離れてくださいます?? 暑苦しいんだが』
 
「やだ」
 
やだ!?!?!?!? 最近なんで時々そういう子供っぽい返しするの!? 母性狙い!? いらんいらん!!! そういうプレイお望みならママんとこ帰れって!!! 心臓がえげつなく絞られて身体に悪い!!! ギュンッてなるんだよそうさ一番ヤバイのは私の性癖!!!
 
「はぁーっ」
 
グッと胸の締め付けに堪える最中に今度落ちてきたのはため息。人の頭の上でため息ついたよコイツ。幸せのお裾分けですか? そういうことならまあ許さんでもない、あざーーっす。
 
「お前が引っ越しのスタッフとなんか楽しそうにアイコンタクトしててタツヤとかで慣れてるはずなのにあの用意されたような爽やかスマイルに絆されかけてなんか随分と仲良くしてたとこについては必至だとしても」
 
『急にめっちゃ喋るじゃん。息継ぎしろ? 』
 
ていうか、特に仲良しこよししたつもりもないんだが。爽やかスマイルのくだりは百歩譲って絆されていたとして、腹中にとんでもないヤンキーを飼育している氷室のスマイルが同列なわけないし、アイコンタクトというほど意思疎通をしていたわけでもない。遠回しに私が悪いみたいな言い草なのはケンカを売っているのだろうか。
考えて、ムッとしてくる。図らずとも自然と眉間に力が入ると同時、サムターンに掛けていた右手の神経がアラームを出した。視線をやっても、見えるのは覆い被さっていたひと周り大きな手だけだったはずなのに。骨格と血管が程よく透けて見えるソレから伸びる節くれだった指が、器用に、それでいて強引に、私の親指と人差し指を絡め取る。親指は親指の左に、人差し指は親指と人差し指の浸りに。そうやって、残りの指も各々の隙間に埋められて、仕上げにキュッと関節を曲げては力を加えられた。数秒の後には、自分のと修のとが交互に並んで見えるようになる。加圧に釣られてまたもや心臓も絞られて、少し苦しい。
 
「ドアの鍵にまでってのは、我ながらヤバいと思う」
 
『ねぇ、話が見えない。そもそも独り言? 会話? どっち?』
 
「けどまあとりあえずは、ようやっとふたりきりになれたのにずーーっとガチャガチャガチャガチャ」
 
『おっと?? まさかの説教パティーンか??』
 
「……うん、そうだな。全部凪沙が悪ィ」
 
『おいとんだ理不尽断罪だな! 裁判ちょーーうっ!?』  
       
声が裏返ったのは、かぷ、と。あろうことか歯みたいなものが、耳の上部分を柔くサンドしたからだ。歯があたる感覚は直ぐに失せたけれど、今度は代わりに生温く分厚い肉のようなものが耳たぶ裏に押し付けられて、ぬるーっと裏面をなぞり上がる。思わず修の腕を上から握って、なんとも言えない感覚に目をグッと閉じながら耐える。こんなとこでおっ始めようものなら私は初日から “実家に帰らせて頂きます” をするつもりだ。

『っや、何して……っ、』   

―――「凪沙」 
 
耳への猛追が無くなったかと思えば、今度は随分と低い声で名前を呼ばれる。喋るときの吐息量なんてたかが知れているはずなのに、吐き出されたモノは、舐められて湿った部分をしっかりひんやりさせて、背筋がゾクリとする。その痺れに酔わされる暇もなく、ぐるんと無理矢理向きを変えられた。背中がドアに当たって、目の前には白いリネン生地のシャツ。もう数え切れないほどに経験した気配を悟って、慌てて視界をシャットアウトする。唇も強く締め付ければ、間もなく訪れるものは予想通りの生々しい感触だ。
 
ここから、短すぎて不名誉な攻防戦が始まる。閉め切った唇を割って入ろうとする侵入者バーサス、未だ素直に関所開けられない私の意地。いつものことながら修は一度離れて甘い言葉で懐柔しようとしたり、顎を指で押し下げて隙間を作らせたりと、あの手この手を使ってくる。あんなに閑静だったはずの空間は、いつの間にか修の熱を帯びた低い声と自分の心臓の音で埋め尽くされていた。
修は右手は鎖をかけたまま、左手で耳を弄ぶ。それでいて真面目な顔をまたゼロ距離まで近づける。この間も強く口を締めているけれど、大抵は結局最後に流されてしまうのが常である。……別に、長時間耐久レースに持ち込みたいほど嫌なわけではないが、毎回抵抗してきた手前、急にすんなり受け入れると、ホラ、都合よく解釈されがちだから……!! そんなプライドで不毛な勝負に挑むのを、修もたぶん知っていて楽しんでいる節はある。あーやだや、だっ!?!? 『ッ、』と喉が閉じて息が詰まる。両脚の付け根に修の膝頭が入って、そのまま上に持ち上げる要領でググと下から圧を掛けられている。こういった手に一生耐性がつかないであろう私が鼻呼吸を見失うのを知っている敵の、悪どい作戦。
喉を鳴らさないようにすることで精一杯だ。だから意識は口から舌に全集中。つまりは呼吸もそこに全集中するわけで。だけど私には水も雷も炎も、況してやそれを纏う刀さえも手持ちにない。一度唇がひとりになった隙に思わず、は、と苦し紛れに開けてしまった蓋を逃さまいと、直様また塞がれる。先程まで閂をつけていたのに、今回は閉める余裕も与えられていない。ぐにぐに押し付けられていたものは容易く侵入する。ずっと窺っていた機会を得て、ここぞとばかりに動くから苦しい。追い出す術は未だ見つからない。もうきっと、全部知っているのに。
  
解放されるまでに、どれほどの時間を要したのだろう。どちらともなく漏れ出る息を二人の間に落とす。この刹那に訪れる時間が、堪らなく耐え難い。恥ずかしさと、言葉には言い表せない、温かさとくすぐったさとを混ぜて煮詰めたものが肺を埋めて、足りなかった酸素もろくに取れない。
 
「ふたり暮らしの醍醐味、味わえたな?」 
 
『ッな、アホ言うな!!!』   

「ヘェ、分かるには足りなかったかァ」 
 
『黙れ脳筋!!!!』 
 
小学生の時はそんなに変わらないはずだった背丈も体幅も、いつの間にやらドンドン大きくなって、追い抜かせないくらいの壁になってしまった。前は心臓に悪い修のしたり顔と邪魔くさい身体、両横にも腕。後ろは運悪く最後に鍵を締めた状態にしたドア。腕の隙間を通って抜けたいが、腹立つことにヤツの脚はまだ私の脚の間にある。定位置にしないでほしい。
逃げ場がないなら隠れるしかない。両手で顔を覆って俯く。それが残された唯一の儚い灯火であると知っているのか、頭上から「くく、」と忍び笑いを落とされる。ああ、悔しい。腹立つ感覚も確かにあるのに、どうしてその笑い方すら胸を締めつけてくる。学生時代は怒りだけで済ませたはずが、今は随分と余計なものまで付いてきてしまうものだ。

右耳に髪をかけられて、顕になったそこにまた骨の髄をまで揺らすような声と吐息が入り込む。 “凪沙” なんて、24年近く生きてて何度も何度も聞いた音なのに。どうしてこんなにも、縋りつきたくなる。縋りついて、ぶら下がるだけじゃ不満で、引き上げて、同じ温度と強さで返してほしくて、堪らない。
    
「俺も足りねえからさ、ホラ」
 
『私は足りて「嘘つきどーこだ」ッ、』

謂れのない感覚を押し付けられたから否定したのに、端から決めつけた言葉と勝ち目のない力で引きずり出される。目も合わないうちに「見ーつけた」と宣うのはやたら弾んだ調子で、背を屈めたのか下から覗かれる。眉を寄せた瞬間にはもう捕らえられていて、先の子供と戯れるような台詞とは正反対な牙に噛み付かつかれてしまう。
息継ぐ暇を適度に与えられながら何度も何度も啄まれて、漸く解放されたと思いきや焦点は首筋に移っていた。
 
『ちょっ、と!!! 』

「────腹減った」

『……は、』

「昼飯、引っ越し蕎麦な。……あれ、なんか残念そうな顔してねーか?」

『してないッッ!!!』

昼食の催促をしてあっさりと私を解放した修は、私の腕を引いて歩き出しながら振り返りニヤニヤと悪どい笑みを浮かべる。くっそマジでやられた!! 普通に言えよ!!
ドンッと背中を叩いて「痛って!!」と悲鳴を聞きながら、前の修の家より少し長くなった廊下を歩く。2DKだから一部屋分増えたわけだけど、一つは寝室でもう一つは私の部屋にしていいらしい。いいのかよ、特に置くものないんだけど。まあ恐らく二人分のパソコンと私のクローゼットが一つ並ぶ客間になることでしょう、うん。

具も何もない、薬味もチューブのカラシとわさびだけという申し訳ない蕎麦でも普通に美味しく食べてくれた修と二人で、とりあえず段ボールの仕分けをする。このダイニングキッチンに置くものと寝室に置くものとを分け終えたあと、私は備え付けのキッチン収納に食器や調理器具を仕舞い、修は寝室の方でたぶんクローゼットに自分の服を詰め直す。
それも終えると、今日届くことになっているソファーやらが来る前に事前に買っておいたカーペットを二人で敷いた。夏には少し暑いかもしれないけどまあ許容範囲であろう素材の感触をしゃがみながら改めて手で確かめていると、後ろに修が座り込む。

「ちょっと休憩……」

『オイ』

まだ特に大きな作業も荷解きもしていないのに休憩かよ。しかもなぜ私を巻き込む!! グイと無理矢理修の胡座の中に座らされ、後ろからさっきみたいに抱擁を受ける。
それから、こめかみから耳の縁、頬と言ったように左側の輪郭のラインに小さく軽いキスが落とされだして慌てて腹に回る修の腕を叩いた。どんな休憩の仕方だこの野郎……! しかし私の抵抗虚しく、チュッ、チュッ、と口で言うにも恥ずかしいようなリップ音をわざと立てながら首筋にまで到達した唇から、今度はぬるりとしたものが割って出てきてキスの跡を追うように今度は来た道を戻る。

『何してんだ! うあっ、ちょ、やめ……、っおい!』

耳の中に舌が入るのと同時に、するりとサマーニットの中に手が滑り込む。そのまま黒のアンダーウェアも掻い潜って、下着の縁をなぞり始めた。カップを縁取るようにあしらわれていたレースの際を、指先が滑る。色や大体の模様は覚えているけれど、細かい装飾の起伏まで憶えているわけがない。想像より遥かに複雑な線を描いてるからか、つつと肌の上を撫でる極僅かな面積が擽ったくて仕方ない。だけど、同時進行で進む耳への猛攻のほうがよっぽど辟易させる。
耐えられず、服の中から生える腕を殴る作戦にシフトする。拳を握って、上腕頭筋のあたりに上からゴツッと打ち付けた。 
 
『修ッ! いい加減にしっ、ひっ!?』
 
……のだが、火に油だったらしい。そこまで力を入れなかったとはいえ、ちゃんと拳を当てたのに。余裕綽々といった様子で耳朶を吸われる。なにそれ!! ねぇ何そのやり返し方!! いちいち変態なんだけど!?!?
悲鳴をあげたと同時に、胸は手のひらに覆われて、形を変える権利をもぎ取っていた。やばい。これはやばい。こんな真っ昼間から、しかも別に暇を弄んでいるわけでもないのに……!!
 
『ちょっと、ほんとに……!! ねぇってば!』

「ワリぃ、止まんねーわ」

『ふざけっ───うわっ!? 待っ、ンッ、どい、ッふ、ンぐ、〜〜〜ッ!』

少し低くなった声。だけど、愉悦を含んでいる。小声とその特徴あるトーンだけで、ちっとも悪びれていない口先だけの謝罪だと分かる。流れるような動作で敷いたばかりのカーペッドの上に仰向けに寝かされ、ソレを追及されないよう強引にキスをされる。さっきまで耳中を丁寧にねっとりなぞっていたハズのそれは、口内ではかなり乱暴に私の舌を混乱させた。
すっかりその気になってしまった修をどうにか食い止めようと、必死に肩や胸を叩いて唇を離させる。一瞬だけ目を合わせた修はそれこそ獲物を狩るような眼差しだったけど、直ぐにそのまま洋服をたくし上げて胸に舌を這わせた。

『っダメって、ば! まだ片付け、終わって、な……っぁ、」
 
まさぐる様子なんてなく、目的地までの距離や場所なんて知り尽くした指が太ももをなぞる。まるでうるさいと言わんばかりに口を何度も塞がれて、迷惑すぎることこの上ない。表現の自由は憲法で保障されているんだけどな!?
 
『ねえっ、た、ンッ、ッ〜〜…、はっ、 たくはいび、くるか、もっ……』
 
「出なけりゃあ不在届け入れてくれんだろ」

『そっ、っふ、ン―――ぷはっ、だからっ!! 一旦話をさせろって、ば!?!?」

異物感に、思わず腰に力が入る。下着の隙間から入り込んだ修の指は焦らすことなく、それでいて努めて丁寧に動き始めた。体の芯を迫り上がるモノは光も吃驚の速度で喉まで到達するから、咄嗟に手の甲で口を抑える。腹筋と咽頭筋でなんとか凌ぎつつ、負けじと首を横に振る。
 
『ぁ、やっ、だッ、』
 
「ん? 痛いか?」
 
『ちが…っ、てれび、とか、来ちゃうって、ばっ……』
 
「お取り込み中でいいだろーが」 
 
『よ、く、ないっ!! ソファーもテレビも大事で、ぅ、ンッ……!』
 
「俺は凪沙がいれば別にいらねぇけど?」

『ッ……』
 
ずっ、ずっりぃなこの男!!!
私だって、あんたがこんなことしてこなきゃそこまで大型家具を重要視してませんけど!?  
 
そんな叫びを心に湛えながら、とにかく上半身をなるべく起こしてもう一度訴えかける。
 
『わたし、はっ、ッく…、はやくほしい、の!!』
 
「速く? Gotcha! そんなに欲しいならイかせてやるよ」
 
『ッ!? 』 
 
耳元で囁かれる甘い刺激には似ても似つかない、荒ぶった動きの指先に視界が滲む。コントロールできない身体の力は下半身にばかり集まるもんだから、喉が開いて仕方ない。狭まってぼやけて、どんどんと悪くなる視界の中で、ニヤリと笑う変態野郎の顔だけがやけに色濃く映る。それすらも何だか悔しくて、下ろした瞼でギュッと強く視界を閉じ、せり上がるものを抑え込もうと手の甲で口を覆ったそのとき、家の中に慣れない音が響きわたった。

「『っ……!』」

二人して肩を揺らし、思わず目を合わせる。ソレが空間に溶けて静寂が戻ると当時に、互いを昂ぶらせていたナニかもいそいそと後退していく。

『ほ、ほら言ったじゃん!!』

「居留守にし、痛って!! 膝蹴りすんじゃねーよ!」

『早く退いて!そんで早く出て!!』

「チッ。タイミングわりぃんだよ」

備え付けの応答モニターに近づいて対応する修を横目に、わたわたと服を整える。ブラ外されてなくて良かった。佑川急便さんありがとう……私としたことが、真っ昼間から流されるとこでした……。
これから二人きりの時間が毎日何時間もあるってことは、つまり、こ、こういうことをされるタイミングというか、チャンスとかきっかけがそれだけあるって訳で。全て防ぎきれるか今から憂鬱になってきた……。白幡凪沙、芯を強く持って、NOと言える人間になろうと思います。