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青花軍 -aohanaikusa-


虹村修造って知ってる?

────おう。バスケ部キャプテンやってるイケメンだろ。
────知ってるよ! うちのバスケ部あんまり強くないらしいけど、みんな虹村くんがいるから諦めないでいれるって言ってるよね!


じゃあ、清水月夜って奴は?

────あぁ、虹村の。そいつも有名だよな、ある意味。
────あぁ、虹村くんの。あれだけ一緒にいれば嫌でも目に入っちゃうから、虹村くん知ってる人はみんな知ってるよ。あ、私は嫌いじゃないよ! 月夜さんのファンも結構いるんだから!

今日は、うちの学年は疎か下手したら学校中が知っている2人の話をしよう。
特に俺としては、 “虹村の” で罷り通っている彼女について語りたいかな。あわよくば、その肩書きと概念を今日は払拭できればいいと思ってる。あくまで願望だけど。

前述した通り、虹村修造は黒髪・高身長・スポーツ万能・男女ともに慕われるいい奴、という日本男児四大スペックに加えてイケてる面を持ち合わせた超人である。この中で2つ揃っているなら黙っていても大抵モテる見解が俺の持論だ。
身体の具合があまりよろしくない親に代わって家事全般もしてまだ小さい弟たちの面倒も見てるし、成績もさほど悪くない。数学や物理に焦点を当てれば、学年の上位をキープしてるほどだ。
部活はバスケ部。俺は卓球部だからあまりその業界のことは分からないけど、そこでは言わずと知れた強豪中学校の元キャプテンで、一時期はナンバーワンプレーヤーの呼び声も高かったんだと。そんな経歴もあって、平々凡々むしろちょっと弱い俺らの学校のバスケ部を先頭で引っ張る柱な存在でもある。あいつがいると色んな意味で諦めることを諦めるらしい。


そして、そんなハイスペックイケメン虹村の隣を歩くのが清水月夜だ。美少女とかスタイルが恐ろしくいいとか、彼女自身は容姿に並外れた特徴はない。
だが、彼女の長所は多いに挙げられる! まず運動神経が良い。我が卓球部の副部長副キャプテンを勤めておられる。あと、笑うと可愛い。お菓子をあげると犬が尻尾を振るように喜ぶ。男勝りというかほぼ男の言動に反して意外に真面目で、宿題とか日直とか掃除とかをサボらない。むしろそういう輩を率先して成敗し(物理)躾る(物理)役回りだ。

とにかく、学年全員に知らているという点では圧倒的なお墨付きのある2人を紹介するとこんな感じだ。まっっったくもって解せないことにバカップルとか両片想いだとか言われてるけどそれは違う。断じて違う。




ここまで自分のことを明かしてこなかったから、此処らで少し補足を。名を知られる必要は無いので言わないが、俺は清水たちの隣のクラスであり日々の彼女たちを観察する機会は極僅かである。
授業間に10分休憩があるが毎度毎度その度に廊下に出て隣を覗くのはどう見ても怪しまれるから、チャンスは一日に2〜3回。2時限と3時限の合間にあるSHRの時間と(自販に行く体)、昼休み(食堂に行く体)。あとは曜日によって無い日もある教室移動の時だ。

そして今、漸くSHRの担任の話が終わったところである。俺は友達と連れ添って自分達の教室を出た。
虹村と同じバスケ部の副キャプテンのこいつが時折虹村に話しかけてくれる日は祝日だ。必ずと言っていいほど、俺に気づく清水も虹村とこっちに来て、俺と会話してくれる。
そんで今日は副キャプテンが部活のことで虹村と話があるらしい。神だ。高揚する気分を周りにバレぬよう抑えて、隣を覗く。

「おーい虹村」

目当ての人物の名を呼ぶ前に、俺はいつもの場所を捉えていた。そこは清水と虹村の隣り合う席がある場所で、この時間なら二人は座りながら駄弁っている、はずなのだが。
─────あれ。おかしい。虹村はいるのに清水がいない。

「ちっ、んだよ吉田、どーした」

「え、舌打ち!?何その歓迎されてない感!お前こそどーしたよ!」

「…別に」

副キャプテンまたの名を吉田に指名された虹村はぶすっとした顔で俺たちがいる扉まで歩いてくる。いつにも増してガン飛ばしてるってーかめっちゃ口尖らせてアヒル口極めてんだけど。つり目が異様にギラギラ光ってらっしゃる。
おいおい、そんなことより清水はどうした?何で今日は一緒にいないんだよ!

俺は慌てて教室内に視線を戻して検索をかける。…と、黒板に近い席で何人かの女子と輪になる清水と目があった。その瞬間にっこりと笑ってくれて、俺を見てくれてた!? と舞い上がったけど……、どうやら違うようだ。そのあとはすごい剣幕で俺の左方向をギンギン睨み付けている。
その様子に俺は数秒で理解した。あれだな。ケンカだ。この二人にとってのケンカはもはや日常茶飯事といっても過言ではないらしく、しょっちゅう言い合ってるのを見る。けどその数時間後には何も無かったかのように笑いあってるんだから妬まし───お騒がせな奴等だ。

「監督からの伝言で、今日のメニューにこれ加えとけって」

「おー」

「……虹村?」

「なに?」

「お前今日朝練から様子可笑しいけど、何かあったん?」

「……なんもねーよ」

存外解りやすい反応を返す虹村に、吉田は「ふーん」とだけ言って話を終わらせた、……と思いきや、

「あ、お前、清水に話しかけなくていいの?」

そんな話題を振られたのは何を隠そう俺である。「は!?」とこちらも明らさまな対応をしてしまった。そして虹村の目も見開いている。

「な、なんで俺が……っ!」

「え? いつも清水と話してると嬉しそうだから?」

「……………」

「バッ、カお前ちげーよ! 変なこと言うな!!」

違わない!! 全然違わないけども!! 刺さってるよ刺さってる!左から鋭利な刃物がグサグサ刺さってる!!!
吉田はいいやつだけど天然が混じってて、計算で言ってる訳じゃないからどうにも防げない。キョトンとした顔で「そうなのか?」というこいつに今回ばかりは腹が立った。なんで今このタイミングで言うわけ!?

「清水とは、部活が一緒だし趣味も合うしで話が弾むだけだから!」

「……おい」

「え、あ、」

「お前、……あいつはやめとけ」

「は?」

慌てて言い訳になりそうなことを探して口走れば、虹村が上からかなりの鋭角で見下ろしてくる。……コイツまじで怖いんですけど……、本当にタメかよオイ……。
かと思えば、俺に聞き返された途端歯切れの悪そうな顔をして視線をずらされる。そして言いにくそうに、ちょっとこじつけた感を匂わせて告げた。

「いや、その……なんつーか……、……あんな奴と喋ったらお前も碌なことになんねーぞ」

カチンときて「何だそれ」と俺が言おうとしたところで、今日は一度も聞けなかったアルトの声が俺の耳をすり抜けた。と同時に、肩にポンッと手が降りてくる。

『いやー、それはこっちの台詞だわー』

「清水……!」

『片山、こんなやつの話なんて聞くだけ無駄だよ。脳味噌チャーハンになっちゃうから止めときな』

「あー、知ってるか片山。こいつの脳味噌生クリームで出来てんだよ。もう溶け始めてるみたいだな。可哀想なこった」

『うわ、脳味噌生クリームって……んなわけないじゃん何言ってんの頭大丈夫?』

「てめぇが吹っ掛けてきたんだろーがよ!」

『片山、今日も自販機行くんだよね? 私も一緒にいい?』

「えっ!?」 「はあ!?」

唐突の申し出。俺にとっては願ってもないことなわけだが……。

「なんでこいつらと行く必要があんだよ!」

『は? 逆に必要を見つける必要がわかんないんだけど。てか私が何しようと勝手じゃんて昨日言ったよね?』

「っ、」

『箱入り娘のおとんみたいで本当ウザい』

「ぐっ………! あ゙あ゙あ゙ーーもう知らねえ! 勝手にしろバーカ!!」

『なっ! 言われなくてもするっつーのお前こそバカじゃねーの!! 行こ片山!!』

「え、あ、ちょ、清水!?」

財布を持つ俺の右腕を両腕両手で掴まれる。清水の肩の前を通ったあげく彼女の身体に押し付けられるそれに柔らかいものが触れれば、健全な男子高生の思考はそれがなにかを覚るなんて秒もので、キャパオーバーなわけで。

『授業始まるからホラ歩いて!』

「いや、ま、っ〜〜〜〜〜〜!!」

当たってる!! とは叫べずに為されるがままの俺は素直なのかヘタレなのか。
決して地獄なんかじゃないこの状況に足元を浮わつかせつつあると、ただのモブ的な立ち位置の俺にそんな月9ドラマみたいな展開が開けているわけもなく。パンパンっと埃を払うように右手から清水の腕が叩き落とされた。

「片山が困ってんだろ離せよ」

『何付いてきてんの?』

「は? 付いてきてねぇよ。俺も喉乾いただけだけど文句あっか」

いかにも普通な顔で言い捨てて少し前を歩き出すそいつは何だか健気で。思わず一番のラスボスながら生暖かい目を向けてしまった。
自販機の前に一番に立つ虹村の背中を睨み付けた清水が、思い出したように振り向いて口を開く。

『片山、無理矢理ごめん。嫌だった?』

なんか、今日はいつものケンカと少し様子が違う。清水の台詞から察するに、昨日からケンカしてるのかもしれないとなると、ココ一番の規模である。清水と虹村が別行動を取るなんてこんなときくらいだし……。

「そ、そんなわけないだ───っうわ!?」

否定して、あわよくば好意を示して意識を持ってもらおうと一時的に策士になった俺の顔に、すごいスピードで缶が飛んできた。激突寸前でキャッチできたのは奇跡に近い。

「何すんだ虹む、ら……」

「あーすまんすまん。お前がいつも買ってるブラック押しちゃってあげようかなと思ったんだけどよ、」

嘘つけ!! 俺はコーヒーは飲めるがブラック飲めないから!! てか、なんで俺の苦手なもん知ってんだよ……。ゾクリと背筋を何かが走った。

「ちっと手が滑ったみてぇで、……な?」

「………………」

冷や汗の中、俺は無言で強引な笑顔を形作るしか術がない。虹村の口角も俺と同じ方向に上がっているが、弧を描く目と眉と、そして米神でひくつくソレに武者震いというものを覚えた。

『ちょ、お前な! バスケと卓球の違いナメんなよ!! たまたま取れたからよかったものの……! 片山、大丈夫!?』

「あ、あぁ……。大丈夫。虹村、コーヒーありがとな」

「いやいや。危ねぇことしてワリィな」

くっそイケメンなんて爆ぜてしまえばいいのに!! こんなに憎たらしいのにイケメンだから許される何かが発動してしまう。
というかそれ以前に。殺されるわ、コレ。頭痛に頭を押さえて、清水から静かに後ずさった。




二番煎じの忠告





俺が周りに清水を想っていることを隠しているのには、理由がある。なぜならこれを知られた瞬間、皆が口を揃えて云うからだ。

無謀だ。命が惜しければ諦めろ。

バカップルだとか、両片想いだとか、そんなのは認めないが。虹村の本気とヤバさだけは今日を経て自覚した。あそこまでいくともはや清水が可哀想に思えてくるな。

 

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