×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

Still…

Episode.6 ちょっとタンマ!

「……ええっと、お話は終わったかしら」

相田さんの声に、私は即座に日向たちの顔色を窺う。おおう睨んでる睨んでる。
感動の再会編は早くも終結を迎えるところだからさっさとずらかろうそうしよう。

『すいません何かお見苦しいものをお見せして時間を取らせてしまって! 全て終わりましたのであとは部活の皆さんでどうぞ!』

「「「え、」」」と言う顔をする後輩カラフルズに清々しいほどの笑顔で対応する。スマイルは0円ですのでご安心を!!

『それでは君たち、頑張りたまえ。じゃ、またね!!』

「「あ、」」「「ちょ!」」

「話は終わってないです白幡先ぱ『邪魔だわごめんあそばせ!!』っ!?!?」

「「「「くっ、黒子ォォオオオッ!!!」」」」

見たか華麗なるこの足払いからの伏せ技。伊達に男子と仲良かったわけじゃないんだぜ!
地面に伸びる相棒を、青峰が指差す。てか黒子筋力無さすぎ軽くてビックリしたわ。

「ぶっは!! 相変わらずスゲーな凪紗!!」

「笑ってないで捕まえんかアホ峰!!」

青峰の笑い声と相田さんの怖い命令を背中で受け止めた私はそのままコンビニへ直行する。
ていうかこれ以上なんのお話があるというのか。私ラスボス倒したけど。エンディングロール? ああいらないいらない。感傷に浸る前にご褒美を下さい。

お馴染みの来店を知らせるチャイムの下を潜り、涼しい冷気を一身に浴びる。じめじめよ早く終われ。
勝手知ったるアイスコーナーへとロスのない道を歩けば、耀く黄金たち。宝箱だ。

『やっべー、ハーゲンなクリスピーいっちゃう?』

レポートを書き終えからのラスボス討伐に今や私の達成感はカンスト済みだ。この “新商品” のラベルがもはや買うしかないことを示唆している。
バイト代は明日入るし、これでもちゃんと貯金してるし、今日くらい贅沢したって良いよねイイに決まってる!!

こういうのは勢いが肝心! ということで、パッとクリスピーを手にした私は他のものを見ずにレジに直進した。
えっと、値札は234円だったから税込みは……、

「2点で576円になります」

『ごひゃくなな、……はい?』

なわけ。つーか今2点って言った?
にこにこと笑う店員さんと目を合わせれば、「えっと、お会計は別ですか?」と問われる。なんの話だ。

「んーん、一緒〜」

「かしこまりました。レジ袋はご利用になられますか?」

「いらなーい」

「ありがとうございます。……あの、お会計……」

「ちょっと凪紗ちーん、早く出してよ」

『ヤだよ!!!』

すかさずレジ代のイチゴバーを取って厚い胸板に押し返す。

『お前巧みすぎるから!! 何さらっと奢ってもらおうとしちやってんの!?』

「だって凪紗ちんがみんなの話を聞かないままコンビニでアイス買うから。ズルいしそんなの」

『意 味 不 !!!』

「もー、早く出してよー。店員さん困ってるしー」

『自分で買えバカ!!』

「いいじゃん後輩に奢るのが先輩の筋ってもんで………、いいや、今回は俺が奢ってあげる」

『───え?』

「はい、これ」

「ありがとうございます。24円のお返しとレシートでございます」

「ほら凪紗ちん」

『え、あ、ありがと、う??』

何だこの展開。渡されたクリスピーは美味しそうな顔をして私を見上げる。早く食べてあげたいけど、嫌な予感がしてならない。君はゆっくり味わいたいんだけどなぁ。
ムラサキの後ろについてコンビニを出る。こいつが前にいると何も見えない。てか足長くね。

お馴染みの音楽を聞いて外へ出れば、またもむわっとした空気が包んだ。嫌だなぁ、ホント。

『ムラサキ、マジでよかったの?』

「いいし別に。他のことで返してもらえるみたいだしー」

『は?』

「さて凪紗ちゃん。お話の続きをしましょうか(ハート)」

『え゙』

待ってこの感じ本日2回目。しかし今回は周りに誰も味方が居ない。日向と劉はさっきの私とカラフルズの関係を知りたいのかニヒルな笑みだし、氷室はエレヤンスマイル。目の前にいるのは恩を売ってしまったムラサキと、有無を言わさぬ赤の帝王並びにハートの女王。他の後輩は目をキラッキラさせてる。
頼みの綱は訳がわからないのかキョトンとしているカガ…、カ、……なんだっけ、カガリくん? と我らが正義中村と伊月なのに如何せん3人とも遠すぎる。
うっわ完璧な布陣だ。まさに袋の鼠。逃げ場なし。


「私、どーしてもあなたとお友だちになりたいの」

『サ、サイデスカ』

何でだろう舞い上がりたい台詞なのにちっとも嬉しくない!!

「白幡さん。俺があなたを探していた理由はさっきのだけじゃありませんよ。話、聴いて戴けますよね?」

え、お前のそのクエスチョンマークまだ取れてないの? 強制の癖に? そろそろ無駄遣いやめろよ。

「凪紗ちーん」

『な、なんだいムラサキくん』

「そのアイス、どうしたんだっけー?」

『……え?』

「恩を仇で返すなんて礼儀がなってないよねー」

『む、ムラサキ……』

私は君に失望したよ。姑息な手段を使うなんて。

何とか白目を黒目に留めながら、今日の予定を伝える。

『あ、あの、私、4時半からバイトが、……いや、嘘じゃないよこれホントですよ!!!』

「ふふ、知ってますよー、先輩」

『……さつきちゃん?』

「今日のシフトの予定はぜーんぶ日向先輩たちから聞いてますから」

オイイイイイイイ!!!! プライバシー侵害にも程があるだろォオオオオオ!!!!
ハイ確認しましたそこの2人!! 日向と伊月!! 目逸らしたな今!!

因みに今の時間は3時過ぎ。バイト先には20分前には着いておきたくて、家の近くなので所要時間は電車で2〜30分、歩いて5分ほどだ。直で行くつもりだったから時間に余裕はあるがもちろん長居はできない。

ということで、

『なら話は早いじゃん。今から出たら確かにちょっと早いけど、言うて話せる猶予は15分。無理でしょまた今度ね』

「いいえ、平気ですよ」

にんまり。まるでその文字の語源となったかと思うほどの相応しい表情に、ひくりと口が引きつった。

「赤司くんが車で送ってくれるそうなので」

『ヒェッ』

思わず悲鳴が出てしまった。赤司の車だと? つまりは赤司家の車であり私が知ってる赤司のそれはテレビで見るものと引けをとらないくらいに長くて真っ黒だった。アレに乗ると? 仮にアレじゃなくても高級車であることは間違いない。

『お、おおお畏れ多いよ!?』

「遠慮なさらないでください」

『おまっ! 遠慮するよするに決まってんじゃん!!』

こちらもまたいい笑顔の赤司くんがいるわけですが流石にそれはヤバイって。勘弁してください。

「ですが此方としてはそうする他ありません。貴女の判断次第で10分も掛からない話です。聴いてくださいませんか?」

微笑みを崩さない赤司に、眉間が皺を作った。こいつも大概しつこい。けれど往生際が良くないのは私も似たようなものだ。断固として拒否をしようと首を振る。先輩らしく、けれど顎を引いて。
それを見た赤司は数秒図って、それから息を吐いた。

「……分かりました。今日は引きましょう。ただし、今度また御時間を取らせてもらいますよ」

私は頷くつもりだったその首を、寸でのところで固めた。彼のその台詞に、してやられたと気づく。上下関係がある以上、彼に先に引かれてしまったら先輩として後輩の願いを聞き入れるのが理想だからだ。赤司や私は、そう言うことに元から煩い方だと自負している。お互いに認識もある。だからこそ先に布石を打たれた状況が出来上がったのだ。

赤司の笑みはニヒルだった。“もうこれで約束は交わされましたよ?” どや顔が心を綺麗にそのまま投影している。つくづく考えさせられる、赤司のこういうコントロールでさえも神がかっていることを。

『ちょ、ちょっとタンマ!!』

「いえ、急いで居られる白幡さんにこれ以上時間を取らせる訳には行きませんから、俺たちはこれで失礼します。また今度、改めて」

『赤司っ!!!』

「それでは戻ろうか、皆」

彼が背中を見せた瞬間、他の人たちも全員踵を返す。キセキは未だしもオイオイ日向たち。お前ら先輩だろそれでいいのか!? そんな私の杞憂は文字通りのもので、誰も何も文句を言わずに私から離れていく。
かといって止めている時間だって無いのが現実で、私は溶け始めたであろうクリスピーの存在すら忘れて呆然と立ち尽くすのだった。