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Still…

Episode.61 じっくり味わえや

青峰と凛ちゃんに危険因子をテントへ丁重に運んでもらい、自分はトン具を持とうとしたが火神くんに横取りされた。曰く、「桃井の言う通り今日はやらなくていいぜ、…っす」だそうですよ、はいイケメン決定。

というわけで手持ち無沙汰になってしまった私は火神くんの横で大人しく肉を待つことに。周りには黒子、日向、伊月、小金井と木吉もいる。オイこれ誠凛勢じゃねーかと微妙な気分になったところで、肩に誰かの腕が回った。その先に持つのはビールの缶。そして背中に当たる柔らかいもの。なるほどアレックスさんだ。

「なあなあナギサー、聞きたいことがあるんだけどよー」

『何ですか?』

「昨日一緒に部屋に来たのが花宮だよな?」

『はい』

頷いた瞬間、カラン! と金属の音がした。火神くんが手を滑らせてヘラを鉄板に投げ出している。何やってんだ。菜箸で器用に掴んで見せ、近くにあった濡れタオルで持ち手を拭ってやる。

『はい、どーぞ』

「あ、スンマセン……」

いやいや、スゴい勢いで目ぇ逸らされてるんですけど。不思議に思っていると、頭を掴まれて無理矢理首を回された。そのまま日向と目が合う。

『痛!? 何!?』

「お前、花宮とってどーゆーことだよ」

『はあ?』

「白幡は本当に花宮と仲がいいんだな」

眉を寄せる私と日向には打って変わり、木吉はまるでお父さんみたいに笑って言う。そう見えますか?いやー、ちょっと嬉しいな。でもここで頷くとまこっちに何言われるか分からないんで、此処は曖昧にぼかしましょうか。

『いや、昨日はまこっちが、出る、って言うから』

「出るって何がですか?」

『えっ、やっぱりみんな知らなかったの!? 何かここ近くに有名なお寺があるらしくて、その影響であのホテル夜になると出るんだって!』

「マジかよ!!」

カランカラン! っておい火神くん。またヘラから手が離れてるぞ。同じように取ってやりながら他の人の反応を見ると、問いかけてきた黒子を含め皆一様に首を傾げている。

「そんな話、初めて聞きました」

「赤司が言ったのか?」

『……らしい。』

「中村に聞きに行こーぜ。あいつたぶんこの場所についてもそういうの調べて来てるだろ」

『そうだった、中村は残念な良い奴だった』

最近はその手の話をしないが、彼は無類のオカルト好きだ。バスケの話を避けてたときは良く話題にしていて、去年の夏休みに一緒にネッシー見に行こうとか言われたときは流石に引いたなぁ……。
あとなんだっけ、UFOを呼ぶ交信? 呪文? みたいなヤツもさせられたわ。夏祭りに行って二人で他の面子を待っていたときに急に両手握られてドキッとしたのも束の間。「ベントラーベントラー!」って叫んだんだよね、空に。あれは迷わずタイキックコースだった。


ともかく中村マンに聞いてみよーってことで、私と日向と伊月で相変わらず早川の世話を焼いている中村の元へ。案の定、この話には興味津々に食いついた。

「俺が調べたときはそんな情報なかった!」

『そ、そうか……』

「赤司家のことだし、不穏なものは隠しているのかもしれないな! 赤司に確認しに行こう!」

『えっ!? いや、そこまでしなくても、って中村くん!?』

ガシッと手首を掴まれ、ズリズリと赤司の所へ引きずられる。オイ待て眼鏡2号! 赤司の傍に黒いのいるんですけど!! いつもの優しい中村なら直ぐに気を遣ってくれているこの場面だがしかし、今はオカルトで頭いっぱいらしい。全く止まる様子が無い!!
気づいた伊月も中村を止めようとしてくれるが、全くもって意に介さないようだ。この野郎一昨日の私の叫びを忘れやがって。
因みに日向はその場で立ち止まり、愉しそうに爽やかスマイルでサムズアップしてる。その親指使い物にならなくしてやるからな。

伊月に白旗を振り、この3人でまたもや氷室とアイツの前に立つ。今回は赤司とムラサキ付きだ。

「赤司!」

「どうかされましたか、中村さん。それに白幡さんと伊月さんまで……」

うわあああ。めっちゃ見てる。めっちゃ見てるよ後ろの2人。もう私は残念な中村を残念な目で見上げることしかできません。
中村は赤司の名を考慮してか、小声で尋ねる。オイお前そんな気を持ってるなら私に遣えや。

「この近くにヤバイ寺があって、それが影響であの宿舎に出るって本当か!?」

「………はい?」

「だから…!」

中村……、キミ今自分がどれ程スゴいことしてるか分かってる? あの赤司に “Pardon?” って言わせてるんだよ。
赤司が形容しがたい目でこちらを見るが、私と伊月はもう他人のフリをしたくて仕方がない。通訳とか無理です。

「期待を裏切るようで申し訳ありませんが、そんな噂は聞いたこともないどころか、近くに寺すらありませんよ」

「「『…………』」」

無言になる三人。伊月が「ということは、」と呟く。


今の赤司の言葉で、私のやることは決まった。肩を落とす中村に掴まれていた手首を振りほどき、踵を返す。目標物を8時の方向に確認したらテントの方に向かい、あとで出そうと思っていたマシュマロを取りだし割り箸に刺しておく。それから、付近にあったまだ使われていない日向のコップにマジックで一言付け足すのも忘れない。
準備を整えた私は、アイツがいるのも気にせずに一番近いそこのコンロでマシュマロを熱し、良い具合になったところで二つ隣のコンロへそれを後ろ手に近づいた。

『花宮……』

「あ?」

「どーしたの凪紗、その顔ウケる。おこなの? 花宮におこなの?」

『黙れ原。……赤司が、この近くに寺なんて無いって言ってた』

「ふはっ、今更かよ!」

『ということは、私を騙したと……』

「だから何だよ。騙される方が悪いんだろバァーっぐ!?」

まこっちお得意の台詞だがしかし!! それを待ってたんだよ!! 大きめに開いた口に隠し持っていた割り箸を突っ込む。勿論先端には焼き目のついたマシュマロが装備されている。

『じっくり味わえや』

割り箸だけを上手く抜き去り、この決め台詞。敵は勿論こんな場所で吐き出す訳にも行かないから、片手で口を覆ってどうにか飲み込もうと必死になっているご様子だ。

そこで耐えきれなくなったらしい原が、ついに爆発した。

「ぶっ、ぎゃはははははは!!! 凪紗サイコー! 花宮大丈夫ー?」

『花宮マジざまあ』

「白幡マジリスペクトだわ」

『瀬戸くんよワンモアタイム「白幡マジリスペクト」

好物はカカオ100%のチョコとかいう、もはやわざわざチョコを選んで食べる意味すら不明な舌に突っ込んだそれは効果抜群らしい。ヤバい、過去にない優越感。
特徴的な眉を顰めて悶絶する姿が復活するより前に、その場を離れる。今のうちに今吉サンの方へ逃げておこう。

「またえらい仕返しやなあ」

『いつか甘いもの食わせたいと思ってたんですよ。私の昨日の寝付けなさを味わえば良い』

「恨まれとるなー花宮」

くつくつ笑う今吉サンの背中越しで、漸くマシュマロを飲み込んだらしいまこっちがザキの手にあったお茶をかっさらったのが見えた。うむ、このあとは今吉サンが足止めしてくれている間に宮地先輩のところへ逃げよう。彼にはカキフライを揚げてアゲないと。軽くキタコレ。


「あのクソ野郎…ぶっ殺す……」

「あちゃー。あれどないすんねん凪紗チャン。今までにないくらい怒っとるで」

物騒な言葉と共にギロリと睨まれ、咄嗟に今吉サンの背中に顔を隠す。仕返しが恐いのは確かだけど、距離さえあれば私は無敵。【ピー】とか、あのときの落書きの写真とか。この話をトントンにする方法はあるのだ。それに何より、

『大丈夫です。何てたって今吉大妖怪先生がいるんですから!』

「……そんなに頼られたら気分も良くなるさかい、ワシのとっておきの妙案を授けよか」

『お、おお……!』

“大妖怪” の言葉が聞こえなかったのか、はたまたそんなのには釣られない器を持っているのか。とりあえず、私は花宮コナーズを手にいれたらしい。
先生のことだ、きっとまこっちが手も足も出なくなるものに違いない! そう思っていると、くるり。今吉サンは爪先ごと向きを変え、私と向かい合わせになった。そして肩を押して器用に私の向きも変え、今度は自分が今吉サンに背を向ける形になる。

「ほな、安全地帯へ行こか」

『え、……え?』

「ええからええから。ワシに任しときぃ」

かと思えば、そのまま押されてズンズンと前に歩かされる。勿論、既に私たちは周りの視線を集めていて、全員が不思議な顔をしている。だというのに今吉サンは何の説明も無しに私を進ませた。
安全地帯ってどこだろう。アレックスさん? いや、彼女は今しがた左に見送ってしまった。ならばあとは景虎さん? ……いや、彼こそ真反対の方向だった。

「────オイ待ちやがれテメェら!!」

『復活早!!』

「せっかちやなぁ」

さっきまで顔が真っ青だった奴から怒号が聞こえ、今吉サンの私を押す速度も上がる。その先に見えたのは赤だ。……赤司か、赤司なのか。いや、でも赤司がまこっちに出来る対処が思い浮かばない。

しかし今吉サンは想像していた通りその赤司がいるコンロで歩みを止めた。目の前にはさっきと同じく赤、紫、そして黒が二つ。

「げー、こっちに来たし……」

『随分なご挨拶だなムラサキ』

肉を頬張りながら煩わしそうに横目で此方を見遣るムラサキに口角をひくつかせた時だった。

「ほれ」

『え、』

「っぅお!?」

トンッと背中を両手で強めに押される。突然だし砂浜だしで上手く爪先が働かず、反動に倣って体が前に傾いた。けれど決して砂々とこんにちはをすることはなく、白と黒のボーダーに額を打ち付ける。手が咄嗟に着かんだのはそのすぐ横にあったインディゴブルーだ。


匂いは、私が知ってるものじゃない。柔軟剤を変えたんだろう。
だけど、……だけど。これが誰かなんて。立ち位置を考えても、さっきの声を聞いても、明白だ。

『っ、ごめ……!』

理解した瞬間に、慌てて重心を後ろに引く。しかし、

「────謝る相手が違ェよな?」

ドンッと、今度は背中が何かにぶつかったのと同時に、嫌な声が聞こえる。──────あ、オワタ。

『はなみ、グエッ!!』

首に回された腕が、喉を締め付ける。

「覚悟は?」

『で、出来てません!』

「まあ関係ねぇけどな」

『じゃあ聞くなよッンぐっ! 苦し……!』

「オメーの大好きなグリンピース口に突っ込んでやるからちょっと面貸せよ。嬉しいよなあ?」

『っや、嬉しくな…!』

もがいて暴れさせて。そうやってたまたま前に伸ばした手首が、パシッと目の前で掴まれる。『……え、』と一瞬漏れただけで、私の声も考えも、全部そこで途絶えた。……理解できるのは、その “温度” だけだ。