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Still…

Episode.27 ま、いっか

ぐいっと涙を拭ったのは数時間前。今は逆にドライアイよろしく目をかっぴらいてガラスケースの中をガン見してる。

「ばっかもうちょい右だよ!」

「は!? 左だっつの!」

『だあぁあうるせぇココだぁあ!!』

バッ! とボタンから手を離せば両足を開いて下りるクレーン。そしてそれは上手い具合に黄色いクマさんの股と頭を挟んで、ガコンッと音を立てて地上に降り立たたせる。

「「『ぅおおお! キタコレェエエエ!!』」」

平均身長約175センチの3人で覗きながら取り出したクマさんをずっと胸の前で握っていた小さな両手に乗せてやる。

「すごぉい! おねーちゃん! おにーちゃん! ありがとうっ!」

『「「っ……」」』

すごいのはあなたです幼女……! 可愛すぎか!! 殺人レベルなんですけど!! 3人互いに片手で様々な箇所を押さえる。私は口を、若松は目を、山崎はもはや顔全体を覆った。声にならない。
悶える私たちに腕に余るクマさんを抱えて手を降る天使。頑張って良かった。グッジョブ私。

「あぁやべぇ、なんかRPG終わらせたみてぇ」

「それな。マジ頑張ったわ」

『主に私がな』

お昼御飯は此処に来る前にマジバで済ませて来たので、今は腹も心も満腹だ。
3人で15分格闘したクレーンゲームから離れる。1人500円ずつあの幼女に貢いだわけだが、全く悔いはない。むしろその使い道はレッドカーペッド。

次はどうするかーって歩いて回る。メダルゲームも得意だけどあれはやりだしたら止まらないから却下。

「お! 次あれやろーぜ! ルイカー!」

『1位になんか奢ってよ』

「言い方がお前が1位になる前提だな。でもいいぜ? 俺勝つし」

「いや、若松こういうの下手くそじゃん」

「ばっ! お前、ザキこの野郎ナメんなよ! 成長したんだからな!」

またもや3人で並んで大がかりなチェアーに背を預ける。久しぶりのゲーセンはスゴく楽しいのでお金が飛んでいくのも気にしない。帰りに卸さないとな。

いつメンで来たこともあるけど上手いヤツはあんまり居ないし、そもそも秋田組がゲーセン初めてだったのに加えて皆慣れてなさすぎて大変だった。彼らのお世話が。
氷室とか負けてるのが悔しくて最後の方のボタンの押し方とかマジ悪魔だったし。中村と日向は不器用だし。強いて言えば伊月がめっちゃクレーンゲーム上手かったな。でも今バスケをしてる彼を見て知った。あれは鷲の目だからだったんだ。チート乙。こちとら経験と技術で培ってんだからなんか腑に落ちない。

チャリンチャリンとご丁寧にお金を入れる音が鳴り、キャラクターを選ぶ。ふっ、負ける気がしない。
そして言うまでもなくウィナーは私ですありがとうございます。若松くんは3位どころか8位と言う残念な結果に終わりました。CPにも負けるって……草生えるわ。山崎は正直上手くてずっと後ろについてたけど、なんとか撒ききれた。彼も2位です。安定ポジフラグが建設された気がする。

というわけで、ビリー若松くんにアイスを奢ってもらいました。プラスチックに刺さってるよくボーリング場とかで見るこのアイスもだいぶご無沙汰だったからか、はたまた賞品だからか、スゴく美味。今度またいつメンを連れてきて奢らせてやろう。

アイスを食べながら2人のホッケー対決や太鼓の鉄人対決を見て、うずうずした私が参戦して鬼でぎりぎりノルマクリアをして。ブランクは恐ろしいねって話題でまたジュース片手にソファーに座って話がつきた頃には、時刻は午後5時を回っていた。一体何時間ゲーセンにいたんだ。

「そろそろか」

「そーだな。行くぞ白幡」

『は?』

有無も言わされぬまま立たされ、ゲーセンを出る。実は序盤にとっていた白とピンクのウサギが入った袋を落とさないよう抱えながら、2人の後を精一杯追う羽目になった。歩くの速いっつーか脚なげーんだよこいつら! 嫌みか! と私のほぼ2歩分で進む1歩にぬいぐるみを握り締める。
嗚呼、こんな大きいやつ取るんじゃなかった。しかも奇跡的2体同時ゲット。まあお陰で、このプレーを見てたあの幼女に黄色いクマさんを取ってと可愛くせがまれたのだから結果オーライなんだけどさ。

はあーとため息をつき飽きた辺りで、漸く2人が止まった。目の前にあるのは某チェーン店の居酒屋だ。あ、そうか。今日は部活の集まりがあったんだっけ。
空は全然明るいのに既に灯りを灯す電気提灯に、ドキドキが競り上がった。如何せん、何のサークルにも入らずバイトばかりに費やしてきた大学生活も早一年と半年。そういう生活を送ることは入学当初から決めていたわけで、もちろん新歓なんてものに顔を出さなかった私は友人たちと居酒屋に入るのが初なのだ。
考えてみればもうお酒を許される年齢の自分を、此処に来て漸く実感する。

うわ、興奮。なんか写真に収めたい。よく分かんないけど、この気持ちを無性に何かに残したくて取り出すケータイ。でもそれはランプが光っていて。カメラを起動する前にアプリを確認すれば、リコからはこの店の地図が添付されていたし、加えていつメンのグループトークが動いていた。どうやら私と一緒に来ようとしてくれていたらしく、探されている文面に申し訳なさが募る。
だけど最後の方に “山崎とかと一緒にいるんだな。今聞いたよ。俺たちも向かうから店で会おう” って伊月が言って、中村が “このトーク気にすんなよ” とフォローしてくれてる。

ああ、早く彼らに会いたい。

もう写真への欲求なんて忘れて、私は顔をあげて双子の腕を引く。

『なんで居酒屋に来たのか良く分かんないけど、入ろう!』

「ぅお!? おい白幡!?」

「ちょ、服伸びるから!!」

そうして飛び込んだ先に待っていたのが、色とりどりの紙とテープと火薬の匂いだと知るまで、僅か数十秒。




「「ようこそ我がバスケ部へ!!」」




思わずキョトンとする私に、ひらひらと最後の銀テープが1本頭に乗った。

「遅くなった挙げ句急の歓迎会でごめんね! でも今日くらいしかなくて!」

「ま、とりあえず座ってください凪紗サン!」

「はい。白幡先輩はこちらの席ですよ」

「凪紗ちゃん! 俺が温めてあげたからね!」

「黙れ森山ァ!」


「おせーよ白幡。あと五分遅かったら轢いてたぞ」

「はっ、挽き肉を贔屓に挽きに行こう!! キタコレ!」

「伊月それどこが面白いんだ?」

「言ってやるな木吉。てか白幡ゲーセン行ってたってなんだよこの裏切り者! 俺らがあんだけ探したのに!」

「日向、その言い方はしない約束だろ。白幡も気にすんなよ?」

「シンヤの言う通りだ。さ、座りなよナギサ。今日の主役はキミだよ」



「は? ゲーセンってマジかよ凪紗! 俺も連れてけよ!」

「大ちゃんは今日はそんな暇な無かったでしょ! あ、きゃー! 凪紗先輩、それ、それなんですか超かわいいうさぎちゃんっ」



「ね〜福ちんお腹すいた〜」

「あっ、てめ紫原! それ俺の水!」

「待ちくたびれたアル」

「劉はさっきからワシの足を蹴ってるんじゃけど!?」


「凪紗センパイ凪紗センパイ! 俺の目の前ッス! ほら! ここ! じゃんけんで勝ったんスよ! 森山センパイと火神っちには負けちゃったんスけど……でもホラ!」

「落ち着くのだよ黄瀬」

「てか、みんな退かねーと座れないんじゃね? です」

「確かに、火神の言う通りだ。入り口に近い皆さんは一旦出ましょう。白幡さん、どうぞこちらへ」

「赤司が美味しいとこ持ってったな」

「さすが征ちゃん」

「さっきぶりだな凪紗ー!」


「ザキー、ゲーセンどうだった? 負けた? 負けたの?」

「うるせぇよ原っ! あーでもコイツめっちゃ上手い。ルイカーとか太鉄半端ねぇ」


「あ、若松先輩はこちらです! すいません! 僕の隣なんかですいません!」

「別に謝ることじゃねぇだろ桜井。ありがとな」


「木村、ドリンクのメニューを取ってやってくれ」

「おう。大坪から渡してくれ」

「あぁ、ほら白幡」

『あ、ありがとうございます……』

喋ってない人がいるのかすら判断しにくかった。何この集団。騒がしすぎる。というか主役の存在を忘れてあちこちで会話が行き交ってるわけなので、全くありがた感がないんだけど……。


『ま、いっか』