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Still…

Episode.20 やってやんよ!

『火神くんそれ好きなだけ飲んでいいよ。まだおかわりあるから』

「っ、あざすっ」

ゴクゴクと動く喉仏を見ながら、氷砂糖を2つその手に乗せてやる。飲み終わったら舐めて、と告げてさっきから呼んでくる黄瀬の前に移動した。

「よくやってくれてたマッサージお願いしたいんスけど……」

『いや、相田さんやさつきの方がいいよ。久しぶりだから不安。下手はできないし』

「大丈夫っス! 先輩に触られてるだけで疲労回復になるんでッ痛!?」

「まだまだ元気そうじゃない黄瀬くぅん。流石ねぇ」

「ちょ、ちょっとリコセンパイ待っ、痛い痛い!!!」

『高男、氷砂糖食べる?』

「よっしゃ! 頂きまっす!」

今日のスターティングメンバーはPG高男、PF火神、SG実渕、SF黄瀬、C若松。今日は久しぶりの他校との練習試合ということもあって、お互い2ピリオドごとに3人以上のメンバーチェンジをすると決めているらしく、彼らは次を乗りきれば交代だ。
まこっちの出番は今はないので10分後に期待する。頭良いからPGとかかな。それかSGか。うーん……と彼のポジションを考えるべく見つめると、舌打ちをされた。


「実渕さんは調子が良さそうですね」

「分かる? やっぱり高尾ちゃんがいるからかしらっ」

赤司の言葉にそう返したオカ…いえ、美しい口調の男性はバチっとウィンクする。目の前で高男がビクリと肩を揺らした。

聞いたところ、今回うちは全員違う高校出身をメンバーにしているようだ。何でも相性を見極めたいが為にこういった特別ルールを敷いたらしい。東大もうちに負けず劣らずの人数なので承諾してくれたとか。
これとあともう一試合やる予定なので、最高で20人の研究が出来るわけだ。その分析は言わずもがなさつきと赤司と相田さんに一任されている。私がマネージャーの手伝いを頼まれたのも納得だ。この短いハーフ時間にも3人で私の書いたスコア表も含めてバインダーを覗き込んでいる。

『つーか、もはやプロだろ』

先程までの戦況を語るとすれば、そう言うしかない。勿論NBAとはまた別次元だし本物のプロの方々には大変失礼ではあるが、数口齧った素人にしてみればそれと同じものを感じてしまうのだ。そのレベルである。

2分間のインターバルは終わり、また彼らを送り出す。誰も4番を背負ってないのが正直救いだった。



****



「「「「ありがとうございました!!」」」」

パチパチと外から拍手が沸く中、今の試合に出ていた10人が並んで互いの健闘を労う。まこっちは2試合とも後半からPGとして出ていた。どうやら向こうのチームの主要PGはあのメガネキャプテンとまこっちの2人らしい。

何度か練習試合をやってるようで、やはりみんな誰かしら知り合いがいるようだ。挨拶が終われば自然とまた人が疎らに別れていく。
なんとまこっちにもそんな相手がいるらしく、試合直後にガムを口にしたムラサキより色んな意味で薄い人や赤茶色の人が彼を囲んでいる。
まこっち友達いたんだね。あ、なんか親の気分。だってあんな性格だよ……、そりゃ親も不安になるわ。所詮私の心の広さなんてそう珍しくはないということか。

ただの助っ人の私にはこれまで東大と関わったことは無く、知り合いなんて悲しいかなまこっちしかいない。うわ、ここに来てまさかのぼっち。恩を仇で返すのも大概にしろよマジで。

暇すぎるから仕方なく片付けを進めてやるよコノヤロー。時間的にこれ以上は自主練する人くらいしか残らないだろう。なら得点板くらいは地下に仕舞っていいかな。
ガヤガヤしている中、得点板をゴロゴロと押し転がして地下への階段に向かう。これくらいなら持ち上げて下りれるけど、いつもさつきとかがやってんのかな。だったら許さん。女子に何させてンだよこの部活。マネージャーにすべて押し付けてんじゃねぇぞ重いものくらい手伝ってやれよ。

『てか、これもしかしたら私の仕事になるのか……』

んんー、マネージャーやるかやらないか、早く決めたい。てかむしろバイトと両立できないなら止めるしかないんだからもうその方向でよくね? ねぇまこっち、ダメかな「なぁ、花宮とはどーいった関係なん?」………『ぅお!?』

急に話しかけられて、肩に手を置かれたと思いきやあの詐欺師がついに接触をしてきた。マジかよ、私カモタイプなのか? ちょっとショックだわ。「女の子とは思えへん反応やなー」とクスクス笑う失礼極まりない彼は糸目なのだけれど、今考えれば一番最初に目があった時は開いてた気がする。怖すぎか。しかも東大の詐欺師なんて勝ち目ないだろ安パイ。
えーと、さつきによると確か名前は今吉、だったかな。うん、間違えてたらおっかないのでお口はチャックしておこう。

「驚かせてしもうたなら謝るわ。堪忍な。で? 花宮と付き合っとるん?」

『っは!?!? いや、え!?』

「その反応やと、シロか」

『いやいや! なんでそんな薄気味悪い話に!?』

顎を擦りながら口角をあげるこの人に、私は畏れではなく恐れを抱いた。花宮ってまこっちだよね? え、花宮ってまこっちだよね? 大事なことだから3回言うよ? 花宮ってまこっ「なんや試合中にチラチラどっか気にしとってな」言わせろよ!
1人心中で突っ込むも、口には出せません。だって怖い。

「そのアツーい視線の先にいるのがいつも自分やったから」

続くインチキメガネの台詞に私は口をあんぐりと開けた。その糸目を見上げる。何だろう、開いてないはずなのに目があってる気がする……。ホラーかホラーなのか。まこっちが私見てたのもホラーだけどな!

『いや、無いです。冗談キツいです。あの人はただのバイト先の常連客で、試合中に私を見るとかあり得ませんよ。さっきから思いっきり目ェ逸らされてますし』

「へぇ。自分にとって、アイツどんな感じ?」

『え? 憎みきれないゲス野郎ですかね』

「即答か。おもろいなぁ。ゲスってことも知っとるようなら、話は早い」

そう微笑したキャプテンさんは、とっても悪い顔をしてたけど、ニヒルを極めた経歴を持つ私にしてみれば彼はこの意味では同志かもしれない。

「ワシな、中学でもアイツの先輩やっとったんやけど、あの頃からまあかわいくないヤツでなぁ。ちょっと痛い目見したいんやわ」

『ほう?』

何やら面白そうな話ではないか。私も常日頃から思ってきたその内容に、ギラリと眼を光らせてしまう。今きっとダイヤ型のあのキラーンが出てるはず。

「このまま話しとけば、花宮は絶対にワシらンとこに来る」

『え、何で?』

「勘や勘。勘としか言いようがないが、それでも絶対や」

嘘だ。こんな人が勘で物事を決めるわけがない。どこかに私に言っても意味のない情報があるんだろう。じゃなきゃ絶対なんて言えない。
こういう人が先輩とか上司だったら病むに違いないなとは感じるが、今はとっても心強い参謀である。

『分かりました。そんで私は何をすればいいですか?』

「花宮と付き合ってるような仲睦まじい台詞でアイツのデレを最高に迎えてやってほしいねん」

『ぶっは……! 任せてくださいそれ私の得意なヤツです』

「そんなら頼もしいわ。お、噂をすれば、」

ついと今吉さんが視線を投げた先に、何なら何時にも増して怪訝な顔つきの花宮さん。そんなに眉間に皺を寄せてしまうと只でさえ短い眉毛がますます短くなっちゃうよ……。

私のいらん心配を他所に、まこっちは私を一瞥して舌打ちを打ってから(酷い仕打ちだ)キャプテンに話しかけた。

「今吉先輩、そろそろ帰りましょう」

「そやなぁ。それよりどうしたん花宮。そない怖い顔しおって。……ワシが愛しの凪紗チャンと仲ようしとったのが嫌だったんか?」

「は、」『えっ!(トゥキメキハート)』

もうこの際、教えていない私の名前をメガネが知っていたことには突っ込まない。
いつもは怠そうに8分目くらいだけ開かれた目。それがマックスに瞼を使っている。ダメだ笑いそう。いや、むしろこのニヤケも活用してみる行くぜ私のターンドロー!
得点板から手を離し、「何言って……!」と動揺を隠しきれないまこっちに向き合う。

『まこちゃん、そうだったの?(キラキラ)』

「っだ!!! 誰がまこちゃんだァア゙!?」

離れたところで何人かの噴き出す笑いが聞こえる。すまない、今日が君たちの鍛え上げられた腹筋との命日になるやもしれぬ。
私はすぐ近くにいるまこっちに華奢なこの両腕を伸ばした。

『私嬉しいっ。アイムグラッドゥーミーチューッ!(ハート)』

「なっ、にすんだクソ女!! 俺はお前なんて知らねぇ!!」

『えっ、酷いまこちゃん!! 昨日はあんなに優しかったのに……っ!(罪の涙)』

「テキトーなこと言ってっと犯すぞ!!」

『やだまこちゃん。公開プレイなんて卑わ「だからそーゆー意味じゃねぇよこのクズ!!!!」

グリグリと背中を曲げつつ彼の汗臭い胸板に旋毛を押し付ける。くそ、身長が足りねぇ。相手のな。
そんな私の矮小らしい頭をグーで殴るまこっちはそうとう暴君。痛い。痛いけどこの反応は美味しすぎる。

「離れろドブス!」

『昨日は離れんじゃねぇって手を握ってくれたのに(ポッ)』

「死ね!! マジで!! 心から!!」

『嘘つき。そう言っても私がこの部活に入るかどうか一緒に悩んでくれたものウフフフフ(ハート)』

ふははは!! いつも他人を見下しているまこっちめ!! 辱しめを受けるがいい!!
この地味に足を踏まれている痛みも後であの詐欺師…いや、今は同志! のメガネにチクってやるからな! さんざんいびられろ! “自分ヤンデレの気質あるんとちゃう?” って言われろ!!!

しかし突然、まこっちは殴るのをやめた代わりに私の髪を鷲掴みにした。……ん? 髪? え、ちょっと待っ『いたたたたた!!!! 髪は痛いって乙女の命だから!!(素)』

ぐいっとそこからの力で首を上げさせられる。まこっちは依然短い眉毛でこう言った。

「知るかよバイトなんて辞めてさっさとこの部に入って精神崩壊しろクソ凪紗!!」

『まこちゃんがそういうなら……やってやんよ!(勢い)』


かくして、私はあっさり大衆の面前でサークルに入ることを認めてしまった。あとから、全てが赤司とさつきに頼まれたあの詐欺師今吉氏によるシナリオ通りの展開だと知った。仕掛人はその3人だけで、私も、もちろん花宮も、他の全員も、漏れなく被害者である。


(良薬は口に苦し)