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「#年下攻め」のBL小説を読む
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女子生徒には言わずと知れているらしいクイズ研の帝光祭スタンプラリー。まさかやよいちゃんが教えてくれたソレをテツくんから誘ってくれるなんて……!! こうなったら優勝の為に情報を集めなくちゃ! 待ち合わせは午後からであと一時間近くあるし、余裕余裕!!
去年は自分達の仕事や模擬店を回ることでいっぱいいっぱいだったから、残念ながら今の私の手元には殆ど何も無い状態。知ってるのはやよいちゃんに教わったあの素晴らしいジンクスだけで、勝利には結び付かない。
そういうわけで、みどりんの占いや赤司くんの道場破りとかを見送った私は待ち合わせの時間まで情報収集に徹した。

まず、去年同様4つのゲームに分かれているみたい。それぞれの試練をクリアするとスタンプが貰える。校内を使う年から校庭だけを使う年など、かなり大規模な開催になるけれど、今年もどのようなタイプなのかはトップシークレットらしい。
毎年中身が一緒なのは第2ゲームのみで、内容はクイズ研の十八番であるクイズ。雑学から数学の問題まで幅広く出るらしい。まあ、バカな青峰くんとペアな訳じゃないしパスも何回でも出来るようだから大丈夫そうかな!

去年のスタートとなったゲームはバドミンドンラケットでボールを挟んで第1エリアを突破するものだったけれど、毎年コレも異なるらしい。何にせよ2人の息が確かめられる物であるのには変わりはない!
大変なのはそこに仕掛けられている罠だ。2年前は落とし穴だったらしいけど去年は倒してあるハードルだったとか……。とにかく何かしら障害物があるみたい。用心しなくちゃ。

第3と第4は何が来るか分からないのでどうにもならないと言われてしまった。うーむ、厳しい。



粗方主要な情報を集めたところで、ふと去年の優勝者が気になった。よし、今度はそれを聞いて回ろう。あわよくば優勝の秘訣も知りたい!!
すると運良く、同じ部活のくぼやん先輩とぐっちー先輩を発見した。良かった、話しかけやすい!!

「くぼやん先輩、ぐっちー先輩、こんにちはっ」

「お? おお、桃井じゃねーか」

「文化祭楽しんでるか?」

「はい! あ、あの、突然なんですけど、クイズ研のスタンプラリーについて聞きたいことがあって……」

「あぁ、毎年恒例の?」

「はい! 去年の優勝者って、やっぱり3年生でしたか?」

「いや、違う。2年生で、お前もよく知っている奴らだ」

「え?」

3年生じゃないのなら優勝も秘訣を聞ける望みもある。だけど私が気になったのはそのあとのくぼやん先輩の一言だ。私が知っている……?
予測を立てる前に、首を傾げた私を見たぐっちー先輩は「去年の優勝ペアだろ?」と確認する。もう一度頷けば、一度くぼやん先輩と目を合わせてから告げた。

「だからそれ、虹村と白幡なんだって」

そうして私は、このゲームのジンクスが本物であることを確信すると同時に優勝なんて無理な気がした。


2人にお礼を言って、とぼとぼとテツ君との待ち合わせ場所に向かう。受付で合流することになっているのだけれど、こんな気分になるとは思わなかった。
虹村先輩と凪沙先輩と言えば、くぼやん先輩たちと同じくバスケ部で、言わずと知れた名コンビだ。コンビと言うのが正しいか分からないけど、スゴく仲が良くてお似合いで、お互いを理解しあって支えていて。あれで付き合ってもなければ幼馴染みでもなく、ただの友人だと言うのだから驚いてしまう。理想のカップル像には違いなくて、私の友達で虹村ファンの子も認めざるを得ないと涙を飲んでいたっけ。
そんな2人が優勝者となれば理解は出来るし、ジンクスも本物だと思える。でも同時に難易度も感じてしまう。あの2人の息の良さはたぶんとてつもなくて、だからこそ優勝出来たのだと言われたらそれを超えられるペアなんていないんじゃないかな。2人が出ないならまだ一縷の望みはあったけど、ぐっちー先輩曰く虹村先輩がバッシュ目当てで今年も参加するみたい……。



受付に到着した私は、優勝の秘訣も分からない上にそもそもこの人混みの中から2人の先輩を……延いてはテツ君さえ見つけられる気がしなくて途方に暮れていた。
……いやでも、もうテツ君と2人で参加できるだけで幸せだよね! うん!!

幻の六人目と言われる彼を見つけることが出来るか不安だったけれど、向こうから見つけてくれたので助かった。……ただし、いらないものも付いてきてるけど。しかもこのガングロ、参加するとか言い出した!! 私が青峰くんとテツ君を取り合っているときーちゃんまで入ってきて一悶着あったけど、黒い白鳥のお陰で何とか事態は収まって、約束の人とスタートラインに並ぶことが出来ている。

今年の第1ゲームは二人三脚らしい。テツ君が結んでくれたこの愛の紐は是非とも持ち帰りたい!! と思っていたところで、ふと私を呼ぶ声がした。

『あれ、さつきじゃん! 黒子と出んの?』

「凪沙先輩!?」

『うわ、何だよ青峰と黄瀬もいるじゃん! でけーから目障りだなー』

「ちょっ、何てこと言うんスか凪沙先輩!」

「てかお前も出んのかよ……」

『まあな! お前らはどうせバッシュ目当てなんだろうけど、私は副賞の一年分の食券をもらいに来「オイ凪沙!! お前ひとりでさっさと行くんじゃねーよ! 探すの大変だろーが!!」───お、お帰り修。受付ご苦労様ー』

後ろから先輩の話を遮ったのはやっぱり虹村先輩で。その手には受付で貰う二人三脚用の紐が握られていた。不満そうに唇を尖らして登場した先輩は私たちを見て目を丸くする。

「おう、なんだ。お前らも出んのかよ」

「……やっぱり虹村キャプテンッスよねー」

「あ? 何だよ黄瀬文句あっか」

「いえ!! でもいくら先輩とはいえ負けないッスよ!! バッシュは俺らのものッス!!」

「ほぉー? ま、精々頑張れや」

『修、キツくない? ちょっと一旦足踏みしよ』

しゃがんで紐を結んでいた凪沙先輩と肩を組んだ2人はその場で足踏みをして調節する。その様子を見て、周りがざわめきだした。

「ねぇ、あの2人って……」

「間違いない、虹村と白幡だ」

「このクイズ研の2年連続覇者だよね?」

「今年も出んのかよ!!」

外野の台詞に、思わずきーちゃんや青峰君も先輩たちを見る。その言葉は2人にも勿論聞こえているのだけど、それにますます気を良くしたようでニヒルな笑みを浮かべた。

「盛り上がってんなァ今年も」

『ま、卒業前にいっちょ伝説作りますか』

腕を伸ばしたり屈伸したり。やる気満々な2人に周りは顔をしかめる。さっきまできーちゃんと青峰君の練習風景に騒いでいた注目を、あっという間に彼らが奪っていった。
それよりも、ぐっちー先輩たちの話を更に超越する衝撃内容に口角がひくりと笑った。

「に、2年連続覇者ってことは、」

「去年も一昨年もキャプテンと凪沙が優勝してんのかよ……」

「さすがというか、何というか……。只者じゃないッスね、やっぱり……」

「一気に勝てるか不安になってきました」

やはりみんな思うことは同じようだ。
そんな私たちなどどこ吹く風で、先輩たちは顔を寄せ合い何やら打ち合わせをしている。秘訣かも! とひたすら耳を済ました。

「今年は障害物じゃねーのか」

『だね。上から何か落ちてくるのか、それとも下から何か出てくるのか』

「……とりあえず毒味はバカ共に任せるか。このゲームは3位以内で突破だな」

なるほど! グラウンドを見て決めたその見解は、少し卑怯かもと思いつつ参考にさせてもらう。テツ君にこそこそと耳打ちをし終わった頃、開始のアナウンスが流れ出した。

そして、クイズ研部長のピストルで試合は始まった。先陣を切ったのは青峰君ときーちゃんで選手はみんなその後ろ姿に度肝を抜かれているけれど、私は隣でほくそ笑む先輩たちもしっかり確認する。

『抜かさないようについていくぞー』

「おー。じゃ、『せーのっ、』」

ニヒルな先輩たちが、青峰君たちと距離を置きながらも殆ど同じコースを辿っていく。その様子に他の参加者もわらわら動き始めた───時だった。
途中で青峰君たちがギュインッと鋭角に曲がる。これまでずっと直進だった故にその行動は謎を呼び、再びみんながポカンとする。そんな中、虹村先輩たちもちゃっかり同じようにある部分を迂回したのだった。



▲▽▲▽▲▽



『おいおい、何であんなとこで曲がったの青峰』

「だから、何か嫌な予感がしたんだっつーの!」

「嫌な予感って……。獣かよ」

走りながら前を行く青峰に話しかければ、後ろを向きながら答えられた。修が呆れたように呟いた感想に、黄瀬と同意を示そうとしたときだった。「「ぎゃぁああ!!」」と後ろから断末魔のような叫び声が聞こえて、思わず4人で立ち止まり後ろを振り向く。見れば、数メートル後ろにさっきまでなかった大きな穴が空いていた。あそこは確か……。黄瀬が青峰を若干引いた目で見る中、放送が流れる。どうやら今年は一昨年と同じく落とし穴作戦らしい、飽きずもまぁ、よくやるな。

「げ、またかよ。去年の方がマシだったな」

『確かに……。でも良く見たら所々にそれっぽいのもあるし、……上手く避けてね青峰っ!』

「俺かよ!!」

「オラさっさと行けよ」

「ちょ、ズルいッスよ先輩たちぃ〜!」

『えー? 行かないなら私たちが先に行くよ。じゃあね、おふたりさん』

修の服と腕を掴む両手に力を入れ直したのが合図で、声と足を揃えその場で足踏みをし始めれば所詮バカ2人。「こんなとこで抜かされて堪るか!!」と叫んだ青峰が無理矢理黄瀬を動かして、結局(さきがけ)先生よろしく道を示してくれる。

『チョロいな』

「これが試合中で他校の挑発だったらシメてたわ」

『まぁ今回はあの単細胞に肖りましょう。んじゃ、とりあえず2位で突破しますか』

青峰たちと同じ道を辿り、なんなく第1ゲームを目標順位でクリアした私たち。次に待っていたのは例年通りのクイズ大会で、ここで予想通り自爆していくアホ峰とガ黄瀬の頭を踏ん付けて1位に躍り出てやる。
第3ゲームは第2体育館の前が受付だった。内容は借り物競争らしい。そこで案内をしてくれた女の子は修のクラスメートらしく、彼女が裏向きに提示したカードは流れで修が引くことになった。書かれていたのは、

『 “キュンキュンさせてください” 』

「もはや借り物じゃねーだろーがコレ!」

『それな。キュンキュンて何? オネーサンをキュンキュンさせればいいの?』

ミディアムヘアの受付係に訊ねれば、恍惚とした表情で首を縦に振ってくる。キュンキュンと言われてもなぁ……。

『しゃーない。修、ほら、いっちょかましてやれ』

「あ? かますって何を」

『顎クイ』

「はぁ!?」

『その偏差値58くらいの顔面を使うときだろ。仕事させてやれって』

「本気でしばくぞ」

『それともやり方分かんないの? こうだよ、こう』

折角なので最大限にカッコつけてみせよう。受付の子の前にある白い長机に、彼女に背中を向けて半分座り腰を軽く捻って遠い方の手で顎を捕らえて斜め上に上げる。そうして瞳の中に映る自分を覗き込む勢いでしっかりと視線を絡ませて、さぁ! お決まりの台詞だ!

『キミ、かわいいね「腹立つ」痛ッた!?』

バシンッと頭を叩かれる。何すんだコイツふざけてんのか!? 「女子にやられてキュンキュンはしねーだろーが。時間の無駄」───この野郎!!!

『だから修にやってって言ったんじゃん!!』

「ンなことオメーの前でホイホイでき───、………………」

言い終わらないところで区切りをつけ、指を軽く揃えた右手で斜めに口を覆う。勢いある言い方だったからこそ、余計にその失墜が気になった。素直に恥ずかしいって言えばいいものの……。

『オメーって、私関係ある?』

「っあーーーだから何でもねーよ!! ほんっと質ワリィし腹立つ!!」

『なっ、どこら辺が質悪いって!?』

今まで楽しくクイズラリーしてきたのに唐突にケンカ吹っ掛けて来やがった!!
売られたケンカは勿論買い取りますが、3年になってクラス離れてから何かとこういう流れになることが多い気がする。沸点低すぎだろ、ヘリウムかよ。
そしてこういう場合、私が尤もな反論を返せば一瞬バツの悪そうな顔をして言葉に詰まるのだが、今回も例外じゃなかった。眉を寄せて視線は逃げていく。

「それは、…………。……じゃあ聞くけど、二人三脚で何か思ったか?」

『青峰ヤベェ』

「ッそーゆーとこだっつってんだよ!! 毎度毎度俺だけかよ!! 不公平だろクソが!!」

『そんなに怒る話じゃなくないか……』

カルシウム足りてないだろコイツ。次回からじゃんけんの報酬を牛乳にしてあげなければならない。
はぁ、とため息をついて幸せを分けてあげようとした瞬間、「オッケーです!!」と後ろから声がかかる。「『え』」と声を合わせてソレを追えば、ニヤニヤした受付の女の子がサムズアップを見せていた。

今の時間にやったことと言えば、ふざけた顎クイと、当事者も意味が分からない口論だ。特に後者なんて他人から見たらもはや意味すら無いように思えるかもしれない。
それなのに、謎のグッジョブを象ったその手は私たちの名前が書かれた台紙にスタンプを押してくれた。3つ並ぶ、イマイチ実感の沸かないソレを受け取りながら思わず確認しておく。

『え、本当にいいの?』

「うん。健気な青春ごちそうさまでした。とりあえず虹村くん頑張れ。「!? おまっ、」我らクイズ研のジンクスを身をもって証明して欲しい」

クイズ研のジンクス……?? ───あぁ、優勝したカップルは幸せになれるとかなんとかってやつか。スタンプラリーの参加者がやたらと男女のペアで構成されていたのは確かそんな理由だったかな。
いかんせん、私も修も1年のときから目当ては商品なもんで、保険も保証もない言霊を狙ってるほど遊び心で挑んでない。こちとらガチ勢なんでね、スンマセン。

でも考えてみれば、私たちが3年連続で優勝しつつある今、その噂は消えかかってるのかもしれない。そうなればきっとスタンプラリーの参加者に影響が出るだろうから、そのための威圧なのかな。
……まぁ、カップルじゃないし、そもそも前提条件として私たちは当てはまらないだろうけど。……というか、カップルじゃなくたって幸せは掴みに行くけどね!

「知るか!! 行くぞ凪沙!」

そんなことを考える私の右手首は、対して全く考えようともしない彼の虹のかかる左手でもって無造作に掴まれ。グイグイと第4エリアまで誘導される。
あー、てかそんなことより。

『お前ケンカ売ったこと忘れてない?』

「…………売ってねーし」

『売られたんですけど!?』



▲▽▲▽▲▽



恥ずかしい上に幻滅的すぎて顔をあげられない私は、青峰くんに手を引かれて漸く真っ暗闇の迷路と化した教室から脱出できた。目が眩むほど明るく感じる廊下にはお互いのパートナーがいて、テツくんは私を置いてきてしまったことに何度も謝ってくれる。その優しさだけで元気になってくるんだから、我ながら単純だなぁ。
大丈夫だと言い聞かせていると、聞き馴れた声が私たちの名前を呼んだ。

「みんな揃って何をしているんだい?」

「赤司くん」

「クイズ研のスタンプラリーです。ペアになってやるもので、僕と桃井さん、青峰くんと黄瀬くんで参加していたんですが……」

道場破りをしていた赤司くんへの説明をしていたテツくんだったけれど、そこまで言ったところで一度間を置いた。そう、割りとこのエリアで時間を使ってしまった自覚は全員にある。言わずもがな私が悪いので、この流れでテツくんに謝ろうと口を開いたときだった。
ピンポンパンポーンと、軽快な電子音のチャイムが校内中に響く。この文化祭中、既に何度も聞いていたこの音に続くのはどこかの団体のお知らせだ。どこのスピーカーから聞こえてるか判断するのも難しいほど全範囲に行き渡った音に、私たちを含める全員は耳を傾けるほかない。

《どうもー、クイズ研究会です。クイズ研スタンプラリーにご参加の皆様にお知らせします。只今の時間を持ちまして、優勝ペアがゴールしました!》

「「「「あ、」」」」

参加者である私たち4人が反応すると、赤司くんは苦笑いをした。

「どうやらみんなは負けてしまったようだね」

「……はい。そのようです」

「ま、どーせ優勝ペアはアイツらだろーけど」

「アイツら?」

青峰くんの推測に首を傾げる赤司くん。その疑問に答えたのは天の声だった。

《今回だけ特別に優勝ペアの発表をします。というのも、このペアはなんと史上初の3連覇を成し遂げているんです!》

3連覇というワードに、赤司くん以外の面子は全員笑ってしまう。やっぱりあのふたりは最強で、バスケ部が誇る最高のバディーだ。

《そんな伝説を作ったのは───3年A組虹村くんと3年D組白幡さんです、おめでとうございました!!》

スピーカー越しに聞こえる拍手に合わせて、私も手を叩く。悔しいけど、正直ふたりの足元にも及ばなかった気もするから仕方ないかな。

赤司くんはふたりの名前を聞いて「なるほど」と呟く。

「負けて当然だったな」

「うるせー赤司!」

「そうッスよ!! 俺たち第1ゲームは1位だったんスから!!」

ギャーギャー喚きだすお馬鹿ペアたちを見て、隣のテツくんが「ふふっ」と小さく笑いを溢した。

「赤司くん、嬉しそうな顔してますね」

「うん、そうだね。私も凪沙先輩たちが勝ってくれて嬉しいけど……。勝てなくてごめんね、テツくん」

「いいえ、一緒に参加してくださりありがとうございます。楽しかったので悔いはありません。後は、虹村先輩たちがジンクスを叶えて下されば物語としては最高なんですがね」

「そうそう、───って、テツくんジンクスのこと知ってたの!?」

その瞬間。初めてテツくんのニヤリと笑った顔を見た私は、そのままハートを射抜かれましたとさ。