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アリウムの唄

動揺して広げた。

でか過ぎない俺と葉山で暖炉の中を探る。炭や木片は入っておらず、少し埃を被っているくらいで想像以上に綺麗だ。
埃を手で払うと、小さな凹みを2つ見つけた。向かい合っているそれは、つまり扉が両開きであることを示唆している。指を引っ掛けて、振り向く。

「葉山、そっち頼んだ。開けるぞ」

全員の顔を確認したあと、俺はゆっくりと指を持ち上げた。厚めの扉なのかずしりと人差し指だけに重石がかかり顔を歪めるが、直ぐ様氷室が補助してくれて助かった。葉山は火神の助けを借りている。
4人で扉を開けきると、ヒト2人分以上の四角い穴が現れ、紙に書いてあった通り梯子が降りている。

「うわ、ほんとにあった!!」

若干嬉しそうな葉山を傍目に、俺は穴を見下ろす。ヒュオ……と風の音が聞こえて、深さを窺った。広がる暗闇に舌打ちをつきつつ、携帯のライトを点灯させる。地面は確認できるからあまり深くはないのか。
ま、この横幅なら火神たちも入れるな。氷室に同じように携帯のライトをつけるよう頼む。あんま充電消費させてもしょうがねぇし、とりあえず灯りは2人で賄いたい。

「ほ、ホントに入るのかよ、ですか」

「あ? ビビってんのか火神」

「び、ビビってねぇよ! 青峰こそさっきから足震えてンじゃねぇか!」

「ば、バカヤロー! これはあれだよアレ。うん、アレだ」

「いや分かんねェよ!!」

馬鹿を放って、俺は梯子に足をかける。奴らは氷室に任せよう。

「俺が先に降りる。次に葉山、青峰、火神、氷室の順で降りてこい。行くぞ」

ゆっくり、足元を照らしながら下る。1段1段の間がかなりあったが、大体10個分ほどで地面に足がついた。思ったより短かったな。ま、深さは5〜6メートルってとこか。

梯子を降りて両側は壁。後ろには数メートル道が続き、奥に扉がひとつだけ確認できた。
俺が扉の前に着く頃にはビビり2人も降り終わり、後ろに備える。

「とりあえず、全員一応気を張っとけよ」

そう言うと、火神と青峰は恐らくバッグに入っていたのであろうバスケットボールを構えた。つーかお前らいつそれ持ってきてたんだ。
突っ込みを堪えて、ドアノブを握る。手前に引くタイプではなく押すタイプらしい。深呼吸を後ろへの合図にして、息を吐いた俺は一思いに腕を押し込んだ。

中はこれまでの道と同じ灰色の部屋で、特に何もいない。四隅の壁に燭台が取り付けてあり、3つだけ蝋燭に火が灯っていたから視界は利いた。
この前黄瀬が早川とやっていたホラゲを思い出す。

「あ、棺桶…」

葉山が珍しく小さな声で呟く。実物を見るのは初めてだったソレは、黒く重厚で厳格さを醸している。金で縁取られた棺桶の形はよくマンガとかで見る三角と長方形を繋げた具合だ。

「吸血鬼入ってンじゃねーの?」

「「Vampire!?!?」」

青峰の言葉に反応した帰国子女の発音に苛つきを覚えながら、部屋を見回す。あるのは棺桶、ただひとつだ。だが吸血鬼が入ってるような十字架は描かれてないし、棺桶自体も直立している訳ではなく、普通に横たえてある。
この中に邪魔者がいる。眉を寄せて、近づいた。
スリルでも感じてんのか、やはりどこか愉しそうな葉山と氷室が俺を抜かして棺桶の前に立つ。

その瞬間だった。

ドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!

「う、うわあ!!!」「「っ!!!」」
「「ギャアアァアァア!!!!!」」

突然、棺桶の蓋が鳴り響く。それは勿論内側からの力で、蓋を叩いているような音だった。騒ぐ青峰と火神、そして葉山を制して落ち着かせる。

「うるせぇシバくぞ!! 落ち着け、叩いてるってことは奴は自力じゃ出れねぇ!」

「そうか!」

氷室の声に、青峰たちも口を閉じた。

「この中に鍵がある。なら開けなきゃ帰れねぇ。いいか、よく聞けよ」

未だ鳴り止まない物音。少し音が小さくなった気がするが、油断はできねぇ。声を張り上げて指示を出す。

「ボール持ってる2人は俺の後ろにつけ。もっと下がってろ。俺が蓋を開けて奴が飛び出してきたらそっちまで引き付ける。俺がしゃがんだらボール投げて攻撃しろ。葉山は横について俺が開けた蓋を支えろ。氷室は奴が棺桶から完全に出たのを確認したら鍵をとれ。いいな」

全員が目配せをして頷く。馬鹿でも意志疎通が出来るならありがてぇ。俺は位置に着くよう手を振りながら、もう一度棺桶の前に立った。
やはり、音は小さくなっている気がする。疲れたのか? まさか。邪魔者イコール化け物と考えた方が臨機応変に行ける。
この部屋の扉を開けるときと同じように深呼吸をした。今回は、分かりやすく腕を真上に挙げておき、息を吐き終えてからゆっくり分かりやすく下ろしていく。
だがその途中、棺桶の中から響く音が止んだ。ピタリと腕も止める。

「……消えた?」

「消えたな」

高めていた集中が途絶えちまったから、俺は一度手を横に振った。仕切り直そう。
そうして静かになった部屋にひとつ、新しい音が全員の耳を掠めた。

────……がぃ……、…………か、…け、て……────

ぞわりと、背筋に鳥肌が走る。だがソレは恐ろしさによるものとは言い難い、妙な違和感があった。
例えば、そう……、

「…………女性……?」

氷室の呟き通り、森山がいたら飛び付くようなものだった。

「今の、声……」

火神の声が、妙に脳に焼き付いた。が、だからといって化け物じゃないとは限らない。ホラゲを見たばっかりだからか、女の声を持つゾンビみたいなものばかりが俺の脳を埋め尽くしていた。

「待てお前ら、気を抜くなよ。作戦は変えねぇ。構えてろ」

「けどよっ……!」

「ここで何か起こす訳にはいかねぇんだ言うこと聞け!!」

煮え切らない火神を一喝すれば、眉を下げたまま渋々ボールを片手で持った。
よし、それでいい。俺には責任がある。全員でこの奇妙な空間から脱け出すために、まず何がなんでも成し遂げなきゃなんねぇんだよ。


さっきと同じように、右手を上にあげた。大きく息を吸って、吐いて、そして腕を下ろし、もう片方の手も添えて両手で思いっきり蓋を開ける。

──────が、何も飛び付いては来なかった。


「……は、」


間の抜けた、か細い声が喉を振動させる。
驚きようは、棺桶の中身を見た葉山と氷室も同じだった。


「タツヤ?」「おいどうしたんだよ」

火神の声。青峰の声。後ろにいるから何も見えていないのだろう。
だが、そんなことよりも、目下の白い喉筋が痙攣したように動いているソコから目を離せなかった。ヒューヒューと、耳を塞ぎたくなるような音が鼓膜を占領している。


先に動いたのは氷室だった。

「っ、おい!! しっかりするんだ!」

俺の隣に回って、その小柄な身体を起こして肩を抱く。瞬間、後ろにいたはずの火神が叫んだ。

「なっ、カイチョー先輩……!?!?」

「は? 女!?」

駆け寄ってきた火神と青峰も気が動転していて、葉山の尻餅をついたのを目にして漸く俺はハッとした。バカヤロー、何ボーッとしてンだよ。女が苦手だとか、そういう話じゃない。棺桶に入れられていた女は、助けてほしくて蓋を叩いていた。そして今は気絶している。

「タイガ、知り合いか!?」

「あぁ、合宿とかでメシ作ってくれてた先輩だ!! おい! しっかりしろ!」

「つーかこれ、やばくね? 何か息おかしい」

青峰が眉間に皺を寄せるから、嫌でもそいつを見てしまう。激しい呼吸だが、上手く息が吸えてないらしい。
だが何より目についたのは、女が纏うセーラー服だった。見覚えのあるそれは、誠凛の監督が着ているものと全く同じだ。

「過呼吸か!? とにかく上に連れだすぞ!」

俺が叫べば、氷室が彼女を抱き起こし、火神が背中を向けてしゃがむ。

「タツヤ、乗せてくれ! 俺がおぶる!」

「ああ! 落とすなよ!」

葉山が火神の落としたらボールを取り、先に扉を開けに走り、携帯の灯りを持つ氷室先導で火神が部屋を出る。
俺は空になった棺桶の中心で光る銀を取り上げながら、青峰に蝋燭を燭台ごとぶち抜くよう頼んだ。とはいっても壁に直接取り付けられているそれを取れる保証はなく、あくまで提案だ。

「出来たらでいいから無理はすん「お、いけた」スゲーなお前……」

少々呆気に取られながらも、俺はそれを受け取りもう1つ取ってくるよう頼む。鍵はポケットに突っ込んで、青峰の後ろについて梯子へ走った。

あの女が、棺桶にいたこと。それが何を意味するのか。このときはまだ、考える余裕は無かった。