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アリウムの唄

知って動揺した。

暖炉組が梯子を降りていくのを見届ける一方で、引き出しの中から見つかったものを誠凛の皆が見に行く。数秒後の顔は総括して蒼白く、だからか胸がざわついた。
沈黙が降りてしまったその集団に、状況を確認しようと赤司が近づいていく。花宮サンが茶化したように自分達の場所から声を張り上げた。

「本物の毒でも入ってたか?」

声の調子や大きさから、本当に彼は人を苛つかせる天才だと思う。鼻につく言い方は桐皇の今吉サンも似た者だっけか。
特に花宮サンは木吉サンの膝を壊した張本人だもんなぁ。日向サン辺りが反応するんかな。まだ崩していない輪の中から傍観する。

しかし、そこで動いたのは監督サンだった。

「本物の毒だったなら……、どんなに良かったでしょうね」

苦虫を噛み潰した表情で振り返った彼女は、胸に何かを抱えていた。
それは “毒” という言葉から想像していたものを遥かに超える見た目で、チラリと腕の隙間から見えるイラストには何処か見覚えがあった。あれ、なんだっけ、何処で見たんだっけ?

というより、あれが毒? 何か全然毒には見えないっつーか、この空間にミスマッチ過ぎるというか。
とにかくもっと良く見ようと細めた視界の先に、突然明るいオレンジが飛び込んでいく。

「…え、「おい!!!!!」ちょっ、真ちゃん!?」

慌てて目の前に現れた緑の頭を追いかける。宮地サンやキャプテンたちも後ろから名前を呼ぶが、この短い距離なのにアイツは走る足を止めなかった。

「おいそれ! 見せるのだよ!」

珍しく切羽詰まった声を出したかと思えば、真ちゃんは無理矢理監督の腕にあるものを奪おうとする。その乱暴なやり口に俺も誠凛のメンバーも制止をかけた。

「ちょっとちょっと! 落ち着けってば真ちゃん!!」
「何すんだダァホ!!」「危ないだろ!」

そんな中、真ちゃんによって腕の位置がずれたお陰で抱えられていたものの他の部分が露になる。
さっき見えていた黒い円は某キャラクターの耳だったらしい。
そして、同じものを見たであろう真ちゃんが力なく言葉を零した。


「────円香……、」

「え? ……あ、」

真ちゃんの言葉にも驚いて、そして漸く状況が読めた。こいつがこんなに切羽詰まった理由も、既視感の正体も、誠凛の暗い表情の意味も。

「緑間君、ごめんね……っ」

「だから俺は忠告したのだよ……!」

「ごめん、ごめん……っ!!」

いやいやいや、急展開に和成ちょーびっくりなんですけど。何で真ちゃんの幼馴染みの円香サンの大切な、……命に関わる大切なものがココにあるんだよ。
確かに部屋にあった制服は誠凛だったし(つーか今更ながら俺も他校の先輩女子高生のお部屋に入ってると思うとスゲーけど)、去年の夏の合宿でも会った通り、料理係として時おり手伝ってるらしいから無関係じゃない。
だけど、今、この場にいる女子は誠凛の監督サンと桐皇のマネージャーだけだろ。どっか別のとこにいるって言うのかよ。勘弁してくれよ。

「俺は、円香にはバスケのことに関わらせていない。関わらせるつもりなど、無かった」

「……っ」

嗚呼、真ちゃん激おこだよ。まあ気持ちは分かる。真ちゃんは、帝光中での不穏な空気を感じ取って彼女にバスケ部の試合観戦やマネージャーをさせなかったらしい(円香サン談)。中学も彼女とは違ったみたいだけど、そこら辺は徹底させてたようだ。
だから真ちゃんにとって、今バスケ部が集められたこの世界に円香サンに関係するものが在ることが可笑しいわけで。その責任は監督サンにあるのだと、そう思いたいのかな。

そして監督サンも表情からして、責任をちゃんと感じてるってわけか。

「ごめ、ごめんなさい……」

「何について謝ってるか分からないのだよ」

「……私、今日円香と帰り道が一緒で「言っておくけどリコは悪くないぞ。むしろあの暗さの中で一人で帰す方が悪いだろ」っ違う! 私が悪いの!」

木吉サンが庇うようにして、監督サンの言葉を遮る。
が、それを振り払ったのはその監督サンだった。

「円香に、最初に手伝いを頼んだとき言ってたの。 “バスケには関われない” って。それに、私あのときちゃんと緑間くんに “当たり前でしょ” って言ったのに……っ」

その牽制は、俺も円香サンもたまたま聞いていた。

「何かに巻き込んだら、承知しない」

「は? 当たり前でしょ。貴方だけが円香を大切にしてるわけじゃないわ」

「ふん、だが俺のほうが『コラ真太郎! 何てこというの! 気にしないでねリコ、私がやりたくてやってるんだから!』

「てか、巻き込まれるって何にだよwww 真ちゃん過保護すぎwwww」

「う、五月蝿いのだよ!!!」


眉を下げて苦笑いを浮かべながらそう言う円香サンは、楽しそうに笑ってた。まさか、真ちゃんの言葉が現実になるだなんて、あのときは露にも思わねぇよな。

「でも、円香は一度目以外は自分からやるって言ってくれてた。巻き込んだかもしれないが、リコだけが悪いんじゃない」

木吉サンの言葉は嘘じゃない。円香サン自身もそう言ってた。あの合宿で初めてバスケに関わっていたことを知った真ちゃんを、円香サンは必死に宥めてた。俺は2人の輪の中に入らず部屋の外で盗み聞きしてたわけだけど……。
『真太郎が熱心になるバスケ、ずっと見たかったの。だから、真太郎には悪いけどすごくリコに感謝してるんだよ?それに、初めて日向くんたちの練習を見たとき、手伝いたいって思ったから今回も此処にいるの。私の意思なの、許してくれない?』
あの日、苦笑いを浮かべながらそう頼む円香サンの表情なんて、容易に想像できた。
だけど、真ちゃん的には腑に落ちなかったんだろうなぁ。ある意味敵陣に付かれちゃったわけだし、そりゃあ面白くないわな。

誠凛勢を見下ろす真ちゃんの瞳は冷たい。赤司もじっと見据えて観察をするほどだ。ま、それだけ大切だってことなんだけどさ。
因みに周りは今イチよく話が見えてないみたいで、だけど誰も口を挟まずに静かに見守っている。

このまま、罪のない2人が争ってても仕方ないし、何より誠凛の監督サンが可哀想だ。木吉サンの言葉は尤もで、この現状で誰が悪いとか、ンなん誰も悪くないに決まってる。
真ちゃんの背中を叩いて、意識を少し戴く。

「真ちゃん、監督サンもきっと同じだって。一緒の罪悪感感じてんだよ。どっちも悪くないんだから、気にすんな」

む、と眉を寄せるも、頭のいい真ちゃんは直ぐに理解してくれる。毎度融通が利かないわけじゃないんだよな。特にこと円香サンに関する真ちゃんの想像力っつーか理解力は半端じゃない。

「てか真ちゃん、考えてみろよ。ここで悪くない親友の監督サンを責めて哀しむのは誰だと思う?」

「……………、分かったのだよ、もういい。それよりそれが此処にある方が問題なのだよ」

ほーらね。ブリッジをあげ直した真ちゃんは視線の位置をもっと下に下ろした。監督サンが目でお礼を言ってきたから小さくピースしておこう。

おずおずと差し出された可愛らしいポーチを、真ちゃんは左手で受け取った。そうそう、確かに今やるべきは犯人探しでも罪の擦り付け合いでもないよな。
痺れを切らしたのか、傍にいた赤司が一歩踏み出したのが見える。

「そろそろ、俺たちにも状況を教えてくれるかい?」

「……ああ、そうだな。手早く事を進めるのだよ」

眼鏡のブリッジを押し上げた真ちゃんは、すたすたと円の方に向かう。赤司が訝しい顔で俺を見てくるけど、此方としては苦笑いを返すことしか出来ないんすわスンマセン。ま、少し面白い真ちゃんが拝見できるってことで! ニヤリと口角を上げれば、赤司は静かに視線を逸らして真ちゃんの後を追った。

だけど、そう上手く事は進まなかったよな、真ちゃん。