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アリウムの唄

解読して知った。


  「
ここに部屋の鍵がある。
その部屋には花瓶がある。
その花瓶には底がある。
そのには紙があって、
そのの中には暖炉があった。
その暖炉の中には梯子が待っている。
その梯子を降りたら一台の棺桶。
その棺桶の中には邪魔者がいる。
その邪魔者の下には鍵がある。
とても大切な鍵が。
」   


赤司くんが並べてくれた言葉に矛盾点やおかしな点はない。これを正解だとして考えることにした私たちは、改めて部屋の中を見回した。
この部屋に棚と机は1つずつしかない。本は机の上にも何冊か重ねられているけど、数は5つほどでそんなに多くはない。
私の考える他所で、赤司くんはPGのらしく人差し指を立てて注目を集めた。

「では、今から暖炉と相田先輩の鍵穴の探索をしてもらいます。一応、暖炉には邪魔者がいるらしいので編成を考えました。すみませんが協力を宜しくお願い致します」

軽く頭を下げる赤司くんに、周りは何人か戸惑いながらも頷く。

「では、暖炉は青峰と火神、それと葉山さん、笠松さん、氷室さんにお願いします。指揮は笠松さんが取ってください。暖炉下にある通路の大きさは分からないのですが、青峰と火神が入れるなら彼らを存分に使ってください」

「「え゙」」「りょーーかいっ!」
「分かった」「I see.」

そうね、邪魔者の存在はとても注意が必要だわ。
遠回しに先鋭だと言われた1年生2人は顔を蒼くしているけど、氷室くんも喧嘩に強いと聞いたし、葉山くんも持ち前の運動神経でカバーできるでしょう。笠松先輩は言わずもがな、ね。

黄瀬くんが俺も俺もと騒ぐけれど、赤司くんが「巨体と馬鹿は3人もいらない」と一蹴している。何だか、ようやっと雰囲気が少し明るくなったかしら。




“多くの本の中にある箱” 、 “賑やか=数が多い” 。つまり、私の見つけた鍵はきっと─────。
ごくりと生唾を飲み込んでから、このゲームの混乱の火蓋を切って落とす台詞を、私は告げた。

「Aにある鍵は、私が見つけたものだと思います」

沈黙は肯定とも言うけど、その通りね。誰もがじっと、私を見つめてる。
ならば、次に起こせる行動はただ1つ。本から鍵を取り出して、立ち上がる。

「だから、鍵穴の捜索、私にさせてください」

真っ直ぐ、赤司くんの目に焦点を合わせる。こんなにまじまじと見るのは初めてだけれど、やっぱりスゴい眼力だわ。ホントに年下なのかしら。

「はい、宜しくお願い致します」

そして、彼は真剣な眼差しのまま、綺麗な赤色に私を映した。
何だか、敵の主将なのにやる気が湧く。困ったものね。ありがとうって、言っちゃうじゃない。



「ちょっ、おいカントク!!」

これは私が見つけたんだから、私の仕事。焦ったような日向くんや鉄平、伊月くんの声には偉そうに背中で語って、変な使命感に支配されるがまま机に向き合った。

鍵も、この部屋の様相も。何もかも絵本の中のお話を彷彿とさせるこの世界。どうせなら楽しんでやろうじゃない。この時そう思って嗤った私は、何も分かっていなかった。ただ、バスケばかりの私たちに起きた説明のできない “遊び(ゲーム)” だと侮っていた。
───カチャ───、鍵の開く無機質な音に余裕と勝利さえ感じた。

そんな自分を責めたのは、机の引き出しを開けた刹那のことだった。
見知った某世界的テーマパークのキャラクターたちが、私を見上げて嘲笑っている。
咄嗟に吸い込んだ空気が狭まった喉の中で詰まる。ひゅっと滑稽な音を鳴らした。

「ん、で……」

彼女が大好きなもので包んだ、彼女の命綱。その下にもう1つ、大切な紙が下敷きになっている。だけどその存在はあまりにも今の私にはどうでも良すぎた。

「カントク?」 「リコ?」 「どうしたんですか?」

何人もの声が近づいてきても私は動けなかった。

コレは、此処にあってはいけないのに。このポーチと中身の “セット” はもちろんこの世に1つしかない。
本物で、現実世界にあるものだと確証は無い。けれど根拠はある。だって同じく世界に一つしかない、あの子が誕生日プレゼントに作ってくれた私の私物も、此処にあるのだ。同じ原理だとしたら、コレは、本物なんじゃないの……?

だとしたら、ダメだ。コレだけが此処に来ることも、コレの持ち主が共に来ていることも勿論。
ポーチを掴む手が震える。いつの間にか背後にいたらしい伊月くんが、「それ……!」と緊迫ある呟きを落とす。そうね、伊月くんたち誠凛のメンバーは、このポーチの中身の重要さを知っているもの。


嗚呼、どうしよう。やっぱり私のせいかしら。どう “彼” に謝ればいいのか、そんな考えが段々と脳を侵し始める。

「何で此処にいるんだ!!」

去年の夏を思い出して、回想に逃げる。コレが現実逃避って言うのかしら。渇いた笑いを溢して、ポーチにかけた指に力を加える。固い感触が冷えた指先を刺激した。
好きなバスケからそこまでして遠ざける理由を何時も謎に思ってたけど、もしかしたらこんなことまで予知していたのかしら。なんて、夢物語みたいなことを考えては前者の侵攻を妨げてみる。

「何かに巻き込んだら、承知しない」

すれ違い様に言われたときは米神が動いたなぁ。だけど、何時もの口癖をあっさり捨てるほど大事なんだって、言われた瞬間に悟ったわ。私だってあの子のことはとても大事だけど、敵わないって思ってしまった。
「当たり前でしょ」そう、断言したのに。神様はどうして意地悪なのかしら。ホント、嫌になる。

取り上げたポーチをまだ引き出しの中にある紙はそのままに、胸に抱く。ポーチを隠したのか、震える手を隠したのか、そんなこと私にだって分からないわ。


「本物の毒でも入ってたか?」

花宮真の茶化すような言い方すら怒りには結び付かないもので、こみ上げる自嘲のままに振り向いてやる。

「本物の毒だったなら、どんなに良かったでしょうね」

これで、私の腕にモノが抱えられたことを皆に知られた。そして、取り乱した彼の足音と怒声が私を追い詰めるまで、あと4秒。