プリンセスが飛び込んで行くようなベッドが広がっていて私は思わず飛び付こうとした。けれどそれは大ちゃんに止められる。
「何が仕掛けてあっかわかんねーだろーが」
「ご、ごめん」
凄んで来る彼に半ば反射的に謝って、ゆっくり大ちゃんと近づく。しっかり調べて安全だと判れば飛び込んでいいんだよね! よーし! こういうときこそ諜報部員の腕の奮い処だわ!
まずは正面からしゃがんで下を覗く。ベッド下にも周りの床にも特にスイッチらしきものはないことを確認してからサイドに回った。
ふかふかの布団を剥ぐと、皺一つない完璧なベッドメイキングが施されたシーツが白く目映い。試しに押してみると、家にあるものとは格別に違う感触が返ってきた。沈み具合と反発具合が絶妙に組み合わせてある。
「大ちゃん大ちゃんすごいよ! ふかふか! 赤司くん家もこんな感じなのかなぁ」
聞こえは悪いけど、お金持ちと言えば我らが赤司様だ。みどりんも医者の息子だけあって立派なお家に住んでいるけど、彼自身赤司くんとは比べ物にならないと断言している。自信家で、だからこそ自慢を躊躇わないみどりんが言うんだから本当なんだと思う。
欠伸をしてテキトーに相槌を返す大ちゃんを一瞥し、危険がないと踏んだ私は堪らずベッドにダイブした。何やら声が聞こえるけど気にしなーい。
部活終わりの身体を包みこむ包容力に思わず瞼を下ろした。眠い。
近くにあった枕を引き寄せて、その下に両手を差し込む。───と、指に何かが当たった。
「あれ? 何だろ」
起き上がると同時に枕の下から引き抜く。
B5の半分の大きさの紙が2つ折りになっていて、大きさと材質共に大ちゃんたちが元から持っていたアルファベットの紙に酷似している。
大ちゃんも背中を丸めて手元を覗き込んだ。
「何だそれ」
「枕の下にあったの。何か書いてあるのかな」
ぺらりと簡易的な動作で開けば、想像以上の文字が羅列していて、少し驚いてしまう。
それは謎なぞのように幾つかの単語が抜け落ちていた。
その の中には梯子が待っている。
その を降りたら一台の棺桶。
その の中には邪魔者がいる。
その の下には鍵がある。
とても大切な鍵が。
手描きの字とワープロの字が混ざったそれは実に奇妙で、ところどころに空いている穴が目立つ。
「あれみてーだな、宝探し」
「そうだね。ココの抜けてる文字って何が入るんだろう。アルファベットと関係あるのかな」
「さぁな。とりあえず後で赤司に渡しとこーぜ。他には何かねーのかよ」
「うーん、…………ないみたい」
もう一度枕の下に手をいれたり枕カバーの中を見てみるけど変わったものは見つからない。
大ちゃんに敷き布団の下も見るからと言って退かされた私は、もう一つ隣のベッドに寄って枕を持ち上げる。
「……ないかぁ」
ため息を吐きつつ枕を戻すと、白いベッドに影がかかった。
「桃っち、さっき何見つけたんスか?」
「あ、きーちゃん」
私と話しやすいようにしてくれたのか、ベッドの反対側の縁に肘をのせて首を傾げると興味津々の様子で私を見上げる。
パーカーのポケットにいれたばかりの紙をまた出して腕を伸ばせば、きーちゃんも受け取りに来てくれた。
紙を開いたきーちゃんは勿論首を傾げたままだ。
「うわ、意味不ッスねー」
「ね! でも、恐らく大事なヒントだと思うの」
「最後は空欄が無くて、しかもそこも “鍵” なんスかー」
「うん。そうだ、ね、……あ!」
ベッドに乗り出して、紙を確認する。そう思えたのは、文字数と空白の大きさに関連性が見えたから。最後から2番目の行だけ、他の穴と微妙に大きさが違っているんだ。
もし、前の文の影響を受けてるならば。
その上の最後から2番目の空欄だけが上の3行よりも大きい理由とも辻褄が合う。
「きーちゃんっ、私分かっちゃったかも!!」
その声に目の前の彼は疎か他の人の視線も私に集まっちゃって、慌てて口を抑える。
訝しげに近づいてくる大ちゃんや若松先輩に苦笑いを返しながら、手を横に振った。まだ公言するには早すぎる。赤司くんや今吉先輩にも訊ねて見てからにしよう。それでも遅くはないはずだもん。
でも、仮に私の考察が当たっているとして。肝心な部分が分からないから、直ぐに鍵は見つからなさそうだな。