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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

アリウムの唄

僕の欠片になるものを広い集めて

さっきまで開いてなかった扉が開いたのはもちろんだけど、一番驚いたのはまだ合流できていない人がいたということだった。
黒髪の身長大きめの人と、なんかすごい意味解らない髪型してる人。ふたりともジャージだけど、氷室くんの隣にいる大きめな人は学校指定というよりは市販されているタイプのもの。隣の人とは学校が一緒じゃない、ということかな。

反応を見る限り、氷室くんと赤司くんは面識があるみたい。 “福田総合” と刺繍されたジャージを羽織ってる彼の不機嫌そうな顔は、少し青峰くんと似たものを感じた。
伊月くん曰くどこかで噂のバイオレンスペアだということで、何だかヤバい、らしい。両方とも文字通り乱暴な節があるとかないとか? 特に頭ヤバい福田総合さんには気をつけてくれと念を押す伊月くん。その必死さに頷いてしまう。
確かに、氷室くんと話してる人も目付きは鋭いしなぁ……。


そういえば、そこの部屋が開いたなら探索をする必要が出てきた。私は会話に入り込めそうにないし、ちょっとだけ抜けてもいいかな。ひとりだと怒られるから……。
ちらりと斜め上を見上げてから、恐らく視えているであろう視界の中で自身を主張するために軽く下から覗き込む。

『伊月くん、相談があります』

「え、何?」

『私とあそこの部屋の探索に行きませんか?』

それなりに小さな声でこそこそと部屋を示せば、伊月くんは目を丸くしてから呆れたように苦笑した。

「……椥辻は本当に怖いもの知らずだなぁ」

『そう? 大坪先輩と木村先輩もついてきてもらった方がいいかな』

「うーん、とりあえず許可は取るべきだと思う。福井さんにもね」

「だよなーお前は陽泉とチーム行動してんだから俺にまず一言言うべきだよなァ?」

『……仰る通りで………………』

合流した為にすっかり抜け落ちていた設定。すぐ後ろにいた福井先輩は背を丸めているのか私と同じ高さしたその顔をすぐ横に寄せ、さっきの自分みたいにこの目を覗き込む。

「で? 空気読めねー子ちゃんは何をしたいって?」

『ぅ、……あの部屋を調べたいなぁ、と……』

「ったく。……しゃーねーな、ホラ行くぞ」

『えっ、あ、ありがとうございますっ!』

すごく残念なあだ名をつけられたかと思えば、想像以上にあっさり許してくれた福井先輩は、むしろ自分から率先して歩き出す。
後ろから大坪先輩たちが驚いたように声をかけたから前にいた人にも振り返られてしまったけれど。それにも福井先輩がラフに応えながら手をヒラヒラ揺らして赤司くんと氷室くんの傍を通っていく。
私と伊月くんは何だか言葉がでなくて、ペコペコと頭を下げてそれに続いた。

部屋の中はホテルの客室のような感じで、置いてあるのはクローゼットとふたつのシングルベッド。それから引き出しと本立てつきのデスク、その下には3段のチェストにイスが入っている。
どちらかと言えば横長の部屋に踏み入れて、とりあえずベッドの上の布団を裏返し、枕を持ち上げて下に何もないのを確認。そのまま腕の中で枕自体に仕掛けやアイテムが隠れていないことを把握しつつしゃがみ、下を覗き込む。
床にも裏側にも特に目ぼしいものは見つからず、枕を戻して隣のベッドに視線を遣る。けれど既に福井先輩が調べてくれていて、首を横に振られる。

伊月くんはクローゼットの中を見てくれていた。一応クローゼットが退かせるなら退かしたいけどそれは後で良いから、先に机を見よう。

机の上には物がなく、横に並んだふたつの引き出しに手をかける。開いたけど空っぽなのに少し落胆しつつ、今度はキャビネットの取っ手を引っ張った。1段目に続き2段目も空。
最後の3段目は少し大きめに設計されている。A4ファイルが縦に入る大きさだ。鍵穴がついているだけあって、軽く引いただけでガチャンと音が鳴る。やっぱり鍵がかかっているみたい。

鍵の在処を示すメモがないとなると、たぶんこの部屋内のどこかに隠されてる可能性が高い。とりあえず机の下を覗いてみる。それから、引き出しをもう一度開けて手を突っ込み、指先で天井にあたる部分をなぞれば───ビンゴだ。もしこれでダメだったら他のとこを探すつもりだったんだけど、良かった。
出っ張ってる異物感を探り当て、周りを固めているテープを爪で剥がしていく。暗がりから照明の元へ出して光を浴びさせれば、鉛色のそれは鈍く反射した。

『これだといいんだけど』

小声で呟きながら鍵穴に差し込む。するりと難なく奥まで一致すれば勝ったも同然。そのまま右に反転させて、鍵をつけたまま引き出しを開いた。
喜ぶのも束の間、中に入っていた予想外のものに取り上げようとした手が止まる。

『……機械? コンセントついて ───「うぉ、どうやって開けたんだソコ」 うわ!?』

3段目を深く覗き込んでいた私は、背後の存在に全く気づかなかった。こちらの言葉を遮るように上から声が降ってきて、そのまま真上を見上げた先にあった顔が思ったより近くてビックリする。
その反動で踵を浮かせて爪先だけに掛けていた体重のバランスが崩れて、尻餅をつきつつドンと後ろの人に後頭部をぶつけた。

「っと、大丈夫かよ。あ、驚かせたのはコッチか、ワリィな」

膝上の辺りにあたったであろう後頭部に右手が添えられて、体勢を戻される。
お礼と謝罪を言おうとしたとき、「椥辻!」とまた後ろから声をかけられる。駆け寄ってくるのは伊月くんだ。

「大丈夫?」

『あ、うん。ありがとう、平気だよ』

へらりと笑いながら立ち上がる。それから横を向いた。……わぁ、意外に身長ある人だったんだ、真くんより少し高いくらいかな。なんて余計なことを考えつつ、頭を下げた。

『ごめんなさい! 驚いちゃったあげくぶつかってしまって……! あの、脚痛くありませんか?』

「いや、俺は全然。謝るのはコッチの方だし、」

『そんな! 後ろに居てくださらなかったら床とこんにちはしてたので! ありがとうございました』

「床とこんにちはって……。くはっ、椥辻だっけ? 変なやつだな。───ま、どーいたしまして?」

『…………変なやつ、』

地味にショックを受ける私に、隣の伊月くんが「面白いって意味だよきっと!」とフォローをくれる。うん、そうなら、いいんだけど……ウン。



「えっと、帝光中元キャプテンの虹村、だよね?」

「おう。えーっと、セーリン……ってことは黒子と木吉んとこか」

ジャージの刺繍を呼んで判断したらしいニジムラさんは、そのまま自己紹介をする伊月くんと少し会話を弾ませる。アメリカで鉄平くんと知り合ったとか、黒子くん含めキセキの世代を変えてくれてありがとう、とか。
私にはよく分からないことがたくさんあると思うけれど、とりあえず彼は私たちと同い年で、赤司くんの先代キャプテンだったらしい。となれば、真太郎もお世話になったのかな。

他の人たちは先にみんながいる部屋に戻っていて、ニジムラさんは私たちがここに入ったことで開かなかった引き出しが気になってしまったみたい。
そんな彼は伊月くんとの会話を一頻り終えると、私を見下ろした。

「───で、椥辻は誠凛のマネージャーか?」

『あ、えっと、誠凛ですが、私は正式なマネージャーじゃなくて……』

「うちのカントクと仲が良くて、時々手伝ってもらってるんだ。あと、先に言っておくと緑間の幼なじみ」

「! ふーん、なるほどな。あ、俺は虹村。聞いてたかもしんねーけど帝光中のバスケ部で、一応主将だった。歳は一緒だけど家の事情でアメリカにいる、つもりだったんだが……」

一瞬だけど、最初にちょっと目を見開いたのは本当だ。でも、その理由になるような反応は隠されてしまって。
次は私に対する自己紹介と、「ココはどこだ?」 なんて、在り来たりというか存分に予想出来る範囲のものだった。私と伊月くんは顔を見合わせて、答えあぐねる。
といっても表現する方法なんて限られていて、彼がアメリカという海さえ越える場所から飛ばされてきたならそれなりに懐疑性も薄れるはず。

「実は俺たちもよく分かってないんだ。でも、京都や秋田にいた面子もみんな最後に思い浮かぶ時間は大体一緒だし、ましてやアメリカにいるはずの木吉と虹村がいるなら……」

『……ここが “異世界” なんて考えも強ち捨てきれない、というところで思考を止めてます。私たちは数時間前にそこの廊下の突き当たりの部屋で目を醒ましたのですが、虹村さんたちは?』

「あー、別に敬語とかいらねーから。俺と灰崎───もう一人のふざけた頭のやつな───が起きたのはついさっきだ。とりあえず部屋から出ようと思ったんだが、内側だっつーのに鍵かかってよ。ふたりでこの部屋探しまくったらそこの机の引き出しに鍵見つけて、───あ。」

そういったところで、虹村さ……虹村くんは何かを思い出した様子を見せる。それからごそごそとジャージのポケットに手を入れた。まさか、と思えばそのまさか。取り出されたのは見覚えのあるカードだった。でも驚くのはその枚数だ。

「虹村も持ってたのか……」

見やすいようにこちらに向けてくれている文字を口にする。

『しかも2枚……。 “Y” と、“M” ……』

「あ、一応言っとくけど、Yは俺のジャージのポケットん中に入ってたやつでMは引き出しの中から取ったもんな」

「え、引き出しに?」

「おう。っつーか、その反応からするに他にもこれ見つかってんだな」

『あの、もう一人の人は?』

「アイツも持ってたぜ。文字は “B” だった」

部屋から見つかったのはそれだけらしい。
これで紙の枚数は16枚。アルファベット26文字と私の持つ “&” に対していよいよ過半数を越えてきた。
虹村くんの枚数は真太郎と一緒だ。今までは意味があるのかもしれないと思っていたけれど、誰かの持ち物ではなく引き出しに入ってたなんて……。やっぱり全部揃える必要があるのかもしれない。そうなると、枚数も関係なくなる。

だけどそれを認めれば今度は “役目を全うせよ” のメッセージが効かなくなってしまう。Mのような存在のものでも、その役目を知れる仕掛けがあるのだろうか。

『んんん……困った……。まだまだ出れなさそうだなぁ……』

「オメーらがここにいるってことは、玄関も内側から鍵かかってたんか?」

「うん。とりあえずこの屋敷の玄関を最初に見に行ったけど開かなくて。この階と下の階で開けられた部屋は全部探索して、今さっき上の階も少しだけ見てきた」

「上もあんのか? 何階建てだよ」

「そういえば、3階では上に行く階段を見なかったな」

『そうだね。私たちが見ていないところにあるかもしれないけど……』

とにもかくにも、情報が足りなさすぎる。疲れも出てきたし、生理的な感覚は遮断されていなさそうだからこのままだと生活の問題も発生するだろう。早めに何とかクリアしないと。
あぁ、 “クリア” って言葉はダメか。どうしてこうも危機感が薄れてしまうんだろう。ちゃんとみんなを守らなきゃ。……毒を以て毒を制すなら、 “邪魔者” 以て “邪魔者” を制せるはず。


「おい椥辻。探索し終えたなら俺たちも一旦戻るぞ」

『えっ、それはダメです、待ってください! まだ全然見てないです!!』

それまですっかり空気と化していた福井先輩の声に慌ててその場から足を動かす。とりあえず机の中の機械は後回し。
クローゼットに近づいて、中を覗く。空っぽなのが惜しくて底を叩いてみるけど、二重になっている気配はない。壁に工具でしっかり固定されてるから動かす必要もなさそうだ。
ベッドにも異変は見つからなかった。まぁ、枕の件があった時点でもう線は薄いけれど。

ふぅと息をつけば、壁に寄りかかって腕を組んでいる福井先輩と目が合う。そうして、こちらに歩み寄りながら「気が済んだか?」と訊いた。

『はい……』

「んなつまんなそうな顔すんな。戻るぞ」

ポンと慰めるように頭に手を置かれる。なんだか宮地先輩みたいだ。


『……伊月くん? どうしたの?』

「……そんなにナチュラルにできるものなのか……」

『何の話??』