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アリウムの唄

落ちて気づいた。

「持っている人と持っていない人がいるようですね」

赤司の台詞に一旦私情を頭の片隅に追いやって、もう一度、小さな紙を引き出した。さっきと同じ “K” が見上げている。
何となく目を逸らし、高尾を見る。こいつにも入っていたようで、首を傾げていた。

「うぉ、何かある。“V” ……?」

「Vか。俺はCとKだったのだよ」

「うーん、全っ然わかんねー!!www」

高尾の笑いに溜め息をついて、赤司の声に耳を済ます。

「何かのヒントだと思われます。すみませんが、誰が何を持っているのか教えてくれませんか?」

言いながら、赤司は初めから傍に置いていたエナメルからA5サイズのノートを取り出して、シャーペンの頭をノックする。以前なら他人(特に桃井とか)にやらせていた作業を自ら進んでやっていることに、俺たちキセキの世代とやらは瞠目しているのだが、赤司は気づいていないだろう。

「洛山は聞いたところによると俺だけのようです。文字は “J” でした。それじゃあ陽泉から時計回りに、名前と一緒にお願いします」

「赤ちん俺持ってた〜。文字は “E” 〜」

「陽泉は紫原だけかい?」

「らしいよー」

「分かった、ありがとう。次、海常高校お願いします」

また、丁寧な言葉遣いは変わらないが、それが纏うものの違いにキセキ以外は戸惑いを隠せていない。高尾も今更ながら驚きを露にして「人間ってこえーな」と苦笑いをする。

海常の該当者も1人だった。黄瀬が “G” を掲げて「グレートってこいつが頭文字っスよね!!」と騒いでいる。
どうやら、ここまでは一貫してアルファベット一文字のようだ。だとしたら26人が紙を持っているのだろうか。しかしそうなると、俺が2枚持つ意味が分からない。

「次、秀徳」

「緑間真太郎、“C” と “K” だったのだよ」

「高尾和成でーす、文字は “V” でー───っ痛!!ちょ、宮地さん痛いっす!!」

ピースサインを強調する高尾を、宮地さんが殴る。頭を擦る馬鹿越しに先輩たちを見るが首を横に振られた。赤司に終わりだと目で合図を送れば頷いた。
今のところはキセキの世代と、そしてなぜか高尾だけが持っている。所謂相棒と称される(俺は断じて認めていない)対象が同じ学年だからか?
だがそうなると、精々7人ほどだ。桃井と黒子、火神を入れても10人。俺のように2枚持ちがいたとしても、あと5枚も埋まらないだろう。
高尾は異例なのか? 眼というある種の努力で賄いきれない才能が誘因だろうか。


「誠凛は全部で3人です」

黒子の凛とした声の内容に、空気が少し揺れた。
───キセキの世代───、さっきまでの案が覆される。全員が息を潜めれば、どこか遠くから振り子時計の秒針が微かに聞こえた。

「黒子テツヤ、“H” でした」

「木吉鉄平! 俺のは “Z”! 最後だな!」

家で俺を待つであろう彼女が言っていた白い歯が、この不穏な雰囲気を僅かに晴らしていく。桃井が苦笑いを浮かべたことに、心なしか青峰が息を吐いたように見えた。

残る1人は、高尾と同じ “眼” という力を持つ伊月さんか日向さんだろう。同じことを予想していたのは俺だけではなかった。─────が、




────「……最後は私よ。相田リコ、文字は “L”」




響くソプラノの声に、「え、」と桃井の声が聞こえる。桃井は持っていないということだろうか。それとも、逆か。

何より、これで全く共通点が見えなくなった。赤司や今吉さんも眉を下げる。あまりにも誠凛に紙が集中しているのは明白で、それもかなり頭を痛くした。

「分かりました。桐皇はどうですか?」

「ワシらんとこは3人や。青峰が “Q” 、でもってワシが “W” 。そんで、……桃井が “N” やな」

最後の報告に、何人かが顔を歪める。桃井のさっきの反応は後者ゆえのものだったらしい。
男でも持ってない人間がいるのに、女子に負わせるなんて悪趣味にも程がある。

「……そうですか。───霧崎第一の皆さんは?」

「俺たちは 「花宮が “D” 持ってるよーwww」オイ一哉」

「原さんありがとうございます。勿論皆さんにも礼を言わせてください。助かりました」

「チッ、本当にあの赤司征十郎かよ」

「まあ、一応は。そう言う意味では少し違いますけど、俺は赤司征十郎ですよ。花宮さん」

「…………。」

にこりと笑みを向ける赤司を一瞥して、壁に背を預ける花宮真は右手に乗せていた紙を丸めた。

とりあえず、一応帝光中出身者は全員何かしらの鍵となるようだ。キセキの世代だけでなく、黒子や桃井が含まれている点も大きい。
木吉さんと花宮さんは五冠の無将だ。だが、それなら洛山にいる残りの3人も持っているはず。
更に一番考察の邪魔をするのは誠凛の監督と今吉さん、隣のバカ尾だ。この3人の共通点が見つからない。それに、俺だけ2枚なのもおかしな話になる。


「さて、もうひとつ確認してもらいたいことがあります。携帯電話を持ってる方は、一応電波状況と時計を確認してください」

考えても埒が明かなそうな問題を一旦退け、赤司の言葉に従おう。
赤司は、“圏外だとは思いますが” と、眉を下げて自身の携帯画面を輪の中心に向ける。
その間にジャージのポケットから出した者もいれば、俺のように自分が寝ていた場所に転がるエナメルを取って輪に戻るものもいた。腰を下ろして携帯を中から取り出す最中、高尾が溜め息混じりに言う。

「鞄ごと移動できて良かったよな真ちゃん。こういうゲームとかだと大抵何も持ってなかったりすんだぜ?」

「ゲームなどというようなふざけたものと一緒にされては困るのだよ。今日のラッキーアイテムもこの中に入れておいたのだから付いてくるのは当たり前だろう」

「アーソウデスネ。ところで携帯は?」

「圏外なのだよ。時間も狂っている」

表示されている数字は、47:39。高尾のは56:78で、連番だと喜んでいる。そーゆーこっちゃないのだよ。
圏外、意味の為さない時計。この2つは全員に共通するらしく、どの顔も強張っていく。

その後の話で、誘拐の件も可能性としては低いと判断した。
正確な時計がない今は、この場所が東北から東京を挟んで京都までの中間地点の位置だとした時の仮定を考えられない。実は俺たちは5時間ほど眠っていたとなればその可能性もある。
だが、例えその問題の結論が出たとしても。全員に薬も嗅がされる記憶すらないことや、この大人数を収容できる屋敷の存在すらも怪しいという。

「ってことは、異世界ってことッスか?」

「それはなんとも言えないね。非現実的で信じがたいが、この状況下ではそんなことも視野にいれた方が良いだろう」

「じゃあホラーゲームって候補も入れといてよ。ただの脱出ゲームよりそっちの方が緊張感高まるし対応力増すっしょ!」

「そうだね。正直あまりゲームのことは詳しくないが、高尾の考えの方が都合が良さそうだ」

「ぶっふぉww 初めて名前呼ばれたww」

吹き出して肩を震わせ涙目になる馬鹿を見下ろして、俺は今日何度目かの溜め息をつく。
まさかゲームの話を赤司にまで持ち出すとは……。つくづく無駄にコミュニケーション力があるヤツだ。




「これからどうするか、ですが。全員でこの部屋を探索してもらおうと思っています」

「え? 普通に出ればいいじゃん!」

「それが無理なんです、葉山さん。さっき確認したのですが、この部屋の扉は特殊で内側にも鍵穴がある。そして扉も開きませんでした」

「えーっと、つまり、」

「鍵を探さなきゃ、この部屋からも出られないってことかしら?」

「えぇ、そのようです」

洛山の会話で、十数人が顔を歪める。が、不満は飲み込んだ。心中で渦巻く泣き言を誰も口にしないようにするのが、思えばこの時からの暗黙の了解だった。誰が言い出した訳でもないが、涙目の桃井や誠凛の監督を見てそうすべきだと各自が判断したのだ。

赤司の合図で、一旦集合は解かれる。