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アリウムの唄

計策が建つ。

何か武器になるものと、この場所から遠い部屋で女子が身を隠せる場所を探すために走る。部屋は最悪目が覚めた場所でいいとして、クソなんだよこの屋敷! どこもかしこも鍵がかかってやがる!
そもそもなんでこんなとこにいるんだか……。受験が終わってもそれはまだ個人の話で、学校全体としては自由登校が続いてる。今日も俺は家でみゆみゆのコンサートDVDを流してうちわとペンライトの振り方をお浚いしていたはずなのに。気づいたら家じゃないどころか、服までスウェットから部活のジャージに変わってやがった。……っとに意味わかんねぇな。
舌打ちをしたところで、吉報が届いた。

「おーい、そんなに慌てなくても大丈夫だったよーん」

これは霧崎第一の原の声だな。あいつら一番後ろにいたけど、無事だったか。声が聞こえたやつらは立ち止まって、続く台詞に耳を澄ませながら周りと目を合わせた。

「コイツ、なんか階段登ってこれねぇみたーい」

その言葉に、疑いと安心が舞い降りる。ホントかよ。違ったら1階に突き落とすからな。真偽を確かめようと、各校何人かが階段へと戻る。そんな俺らが見たのは、確かに階段の3段目にいる瀬戸に向かって下ろされた目を塞ぎたくなるようなバケモノの斧が、見えない何かに阻まれいる光景だった。

「透明な壁みたいのがアイツにあるらしく、こっから先には入って来れねぇ」

壁、と言ったのは、恐らく刃が空間に刺さったような状態になっているからだろう。バケモノはそれを抜き去るように斧を動かしている。花宮の言葉は嘘ではないらしい。

霧崎第一が全員2階に上がりきると、バケモノは呻き声をあげながらズルズルと左側の廊下へ消えた。さっきは右から来たが、戻るわけではないのか、それともこれから徘徊するのか。
この目で見たものが未だに信じられねぇ。実感が沸かないからか、ほとんどの奴がボーッと下の階を見下ろしていた。…………一部を除いて。

『やっぱり、今しかないよ』

「いや、それは分かりますけど、流石に真ちゃんが許すわけないっつーか……、」

「当たり前なのだよ! 馬鹿なことを言うな円香!」

『でも、あのバケモノが規則的な動きをするならいる場所が確定してる今が良い機会だよ。1階は全然調べてないし、あんなのが一階にいるなら2階ももう安全じゃない。もたもたしてるとゲームオーバーになる』

「これはゲームじゃないのだよ!」

「まあまあ、真ちゃんちょっと落ち着いて。円香サンも、プレーヤーが俺たちだけな訳じゃ無いっすから、勝手な行動はやめときましょ? ……うわぁ宮地サン顔怖いっす」

「あ?」

「イエナンデモナイデス」

「……で、お前ら3人はこの状況のなか何ピーチクパーチク喋ってんだよ焼くぞ?」

俺の登場に息を吐いた緑間。助かったとでも思ってんのかこいつ。周りの視線が集まってることに気づいてたであろう高尾は、「ですよねーすんません」と潔く謝った。
……が、コイツは違う。『宮地先輩、』と何かを既に決めた顔で俺を見上げる他校の後輩椥辻。お前、目ェ輝いてねーか? 他の女子は不安そうにしてんのになんつー生き生きした顔してんだよ。

『一階はまだ全然探索してませんよね』

「……とりあえずあの正面のでけぇ扉は鍵かかってた」

『鍵を探すにあたって、やっぱりいつかは一階も調べなきゃならないと思うんです』

「……そーだな」

あー、こいつ、確か高尾とゲームの趣味が合うんだっけか。そんで、その内容っつーのもホラーゲームとかゾンビシューティングとか……おいおい、勘弁しろよ?

『あのバケモノ、ホールに入った瞬間にスピードが上がりましたが、逆に言えば廊下の時はすごく遅かったです。足が速くなる条件が敵の発見ではないってことは、あの人が廊下にいる間にもう片側の廊下を調べる時間は十分にあると思うんです』

「却下」

『!?』

食い気味の返しに驚いた椥辻は、ギュッと俺のジャージを真ん前から掴んだ。オイ外野共、俺を睨むなよ。……ったく轢くぞ。悪くねぇからな俺は。

『まだ何も言ってませんっ』

「そこまで言えば結末分かりきってんだよ! 却下だ却下!」

『でも、アレの性質を生かすならどっちの廊下にいるか知ってる方が探す時間を増やせるんです! ここで後回しにして右か左か賭けに出るより、今降りて右の廊下を調べた方が確実です!』

「そいつが廊下の奥にいるとは限らねぇだろ!」

『そうなので一回動きの確認は必要だと思いますが、こういうタイプって大体機械的に動くんで恐らく左の廊下のどっかの部屋に入るか突き当たるまで進んでまたホールを通って反対側の廊下に入って突き当たるまで……を繰り返すのが多いです』

「タイプってなんだよ!」

『ホラゲの定番ってことです。ね、高尾くん!』

「そうですね、ってここで俺に振らないで! あーもう超いい顔だし円香サン!」

「大体もし廊下で追い付かれたらどうするつもりなのだよ」

『その時は……、……その時です』

「「オイ」」

緑間と初めて心が通った瞬間だった。自信満々に進んでいたはずの話は急に威力を無くし、椥辻の目も逸らされる。けどそれも一瞬で、また視線が戻ったと思えば次も誇らしげに説明を加えた。

『大丈夫! なんたってアレはノロいですから! なんとかなります! というか高尾くんが居て常に報告をしてくれれば案パイだと思う! ね、高尾くん!』

「ちょ、俺すげぇ重要じゃん!」

高尾への信頼は並以上らしく、緑間がムッと眉を寄せた。お前も大概分かりやすいよな。視野の広い高尾のそのケラケラ笑う理由も、たぶん椥辻の話より緑間の顔だろう。

椥辻は話す相手と体ごと向き合うタイプだ。今も俺から高尾に爪先を方向転換し、詰め寄るように必死に上を向いている。……なんつーか、小せぇ動「なんだよあれ……! まるで構って欲しい小動物じゃないか! 早く話しかけたい! 俺のターン来い!」───まるで幼稚園児だ。そう幼稚園児。小動物? 馬鹿言わせんなよ埋めるぞ。森山と同じ思考ベクトルとか死にてぇから。

『今こそ私と高尾くんのホラゲボンドをこの真太郎に見せるときだよ! いつも後ろから野次を飛ばすだけの真太郎に “お前たちがいて良かったのだよ。これからも家のPC使っていいのだよ” って言わせようよ!』

「言わないのだよ!」

「ホラゲボンドってwww てかそれ……ナイスアイデア! 宮地サンやらせてください! 俺と円香サンなら行けます! だてにふたりの総プレイ時間積んでません!」

「言わないと言ってるだろう!」
「高尾テメェ何言って……!」

『私と高尾くんはいくつものホラゲーをクリアしてきました! あの魔法の家のノーセーブクリアだってやり遂げました!』

「凄さわかんねぇんだよ! 説得力ゼロだからなソレ!」

「宮地サン!『宮地先輩!「宮地サン!『宮地先輩!「宮地サン『宮地先輩「宮地サン『宮地先ぱ「だぁぁああ! うるせェお前らそこに直れ轢く焼く埋める裂く割る!! 緑間お前のだろ何とかしろ!」

「高尾は俺のではない。あとこうなった円香は何言っても無駄なのだよ」

「真ちゃん酷いっ和成ちゃん泣いちゃう!」
「データ消すって脅せよ!」

『残念でした! 私思い付いたんです。今日真太郎ん家なんで帰ったら即刻バックアップとっておまけにロックかけます。だから脅しにならないよ、ドンマイ真太郎!』

「ドンマイ真太郎!」

「っ、真似をするな高尾!」

椥辻と高尾が緑間をからかいだすと結局こうなる。この事態の深刻さすら忘れそうな雰囲気は俺が怒鳴れば収拾つくが……正直今はもう面倒くせぇ。誰かどうにかしろよってため息を吐いたところで、思わぬところから助け船が出てきた。

「そこまでやお三方。みんな呆れとるで」

『ぁ、翔一先輩……』

“翔一先輩!?” と誰もが突っ込んだが、コイツ花宮のことも名前で呼んでたもんな。一々驚いてちゃ身が持たねぇ気がしてきたわ。
胡散臭いメガネの奥で目を細めて、膝を丸めて椥辻と目線を合わす今吉。……今度こそ幼稚園児みたいな扱いをされてるな。つか今吉も膝を曲げんなよ……、引くわ。

「で、さっきの話やけど、どれくらい勝算あるん?」

『えっと、足がノロいしあの進み方のシステムを生かすならやっぱり隅から隅まで移動するタイプだと思います。仮に壁の奥まで行かなくても、やっぱりその性質を利用して一階を調べるって手段の筈です。勝算は……結構高い、です。こんなにやり方があっさり浮かぶので、最初のイベントとしてもしっくり来ます』

「せやな。けど、もし部屋に入ったとして、その扉の前で待ち伏せされたらどうやって出るん?」

『斧を下ろす音を目印に私たちが動くことが今回の肝なら、待ち伏せされる可能性も少ないかな、とは思います。もしされても、中にアイテムや切り抜ける方法があると考えたいですね。ただ、部屋の中でホールでのスピード出されたら、…………ごめんなさい』

「ごめんなさいって……。お前なぁ」

俺の呆れた声に、椥辻は申し訳なさそうに肩を窄めた。今吉が訊いた時点で、こいつの発言の信頼度は他の奴らの中でも高まるわけだが、不安要素が全くないわけでもないとなると頷くことはできない。

「そうは言うても、本当はその待ち伏せを切り抜ける方法があるやんなぁ?」

今吉が語尾の調子と共に口角を上げる。確信めいたそれに全員が椥辻を見る中、本人は突然怯えた顔をした。今までの態度が一変、突然しおらしくなって、『でも、』と戸惑いの声を出す。
言いにくい作戦なのか、俯く椥辻。

「ええんとちゃうか、その囮作戦」

次に今吉の口から出た単語に、ざわついた。囮……ってのは文字通りで、誰かが危険な目に会わなきゃならねぇ。色んな人の視線が鋭くなる中で、今吉は椥辻を慰めるように続ける。

「この状況や、どうあがいたって危険は憑き物。しかも、こんだけの人数いるんやからその条件も一つの手段として使うていく設定とちゃうんか?」

ぐっと眉を寄せる椥辻。それは怒りじゃなくて、恐らく的を得てるからこその不安だろう。
もしそうならば、今回も、この先も。囮をはじめとした、大人数だからこそ出来る動きをしなければならなくなる。ここで頷くことで、その事実を認めるのが躊躇われるらしい。
椥辻の右手が、左腕のセーターを強く掴んで白くなる。

「そん中で、円香チャンのと一緒やと思うけど、ワシの考えた囮作戦っちゅーのは一番危険のリスクが低い」

リスクが低い。椥辻はそれを聞いて弾かれたように顔を上げた。
同時にきっとこいつにとって今吉は信用に足りる人物なんだと、悟った瞬間。向かいに居た高尾と目があった。どこか不安げに黒目を揺らす。何だよ、その反応。

『ホント、ですか?』

「自分もそう思っとるんやろ。ここでは円香チャンや高尾の知識はだいぶ価値あるで。自信持っといたらええんよ。……高尾も同じこと考え付いたんやろ?」

ビクッとした高尾は、ちらりと椥辻を捉えながら視線をさ迷わせて斜めに頷く。

「え!? あー、ま、そうっすね。幸い、みんなバスケ部員だし? 囮っつっても同じのどっちにも配置して出たり入ったりしてりゃあ、かなりいけると思います」

「ほんなら、一先ずそれで行こか。各校の代表者、ちょい集まってくれ。良い案見っけたで」

良い案、と言ったものの、内容は囮作戦だろ。渋い顔をするチームメイトを背にして出てくる主将は、それでも話を聞く前からこの方法しか無いって言ってるような凛々しい顔ばかりだ。いざとなったら多分、その囮役は自分達が買って出るんだろ。……はぁ。なんか、大坪たちに負けた気がする。