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アリウムの唄

検討して終わる。

「蓋を開けたらそいつがいて、様子がおかしかったから急いで火神と氷室に運ばせた。で、そいつの下に、 “コレ” があった」

笠松のジャージのポケットから出されたのは拳で、それを目の前に突きだした後で指を解いていく。掌に乗っていたのは、誠凛の監督が見つけた鍵よりも二回りほど大きく照明に反射してか銀色に輝いていた。
そういえば今思ったけれど、この部屋の電気(…っつってもシャンデリアだな)は元からついていたのだろうか。パッと見、電気のスイッチらしきものは見えないが、シャンデリアにつけられているのは蝋燭ではなく今どきの電球だ。お陰で消える心配はないけど、変に都合が良いというかなんというか。

「そのサイズなら、出入り口の扉に使えるかもしれないな」

「あぁ。小堀のいう通り、試してみる価値はある」

頷き合う海常コンビの周りで、他校のメンバーも何人かは納得しているようだ。だが俺としては、そのドアを開けるよりも白黒つけたいことがある。この場は已然赤司が仕切ってるけど、俺は3年だ。話を切り出す権利もあるべ。

「ちょっと良いか。確認してぇことがある」

そう言えば、モアラが暑苦しい顔で俺を見下ろした。上から見てんじゃねえよ赤司じゃねぇけど頭が高い。

「その鍵が出入り口のヤツだったとして、だ。暖炉の中には梯子があって、その梯子を降りたら棺桶があった。……ってことはよ、今まで見つけた紙に書いてあったコトは間違っちゃいねぇわけだ」

ピクリと、ベッドの周りの連中が反応する。特に偏差値とか言動からして頭良さそうな秀徳と誠凛の監督あたりは目を細めた。今吉と花宮も思う節はあるみてぇだが、表情には出さないところ手強いって思っちまう。まあ別に戦う訳じゃねぇけど。
ベッドの周り含め、他にも表情を強張らせた奴等は俺が言いたいことも何となく読めてんだろうな。氷室なんかは絶賛葛藤中だ。苦しめた罪悪感と、信憑性のない人間への疑惑に挟まれてやがる。


「じゃあさ、そいつ……、紙に言わせたら、 “邪魔者” なんじゃねぇの?」


このクソ狭い部屋で、俺のセリフは迷惑な程によく浸透した。この事実から目を逸らしていた連中は一様に俯く。そんなのとうに分かってた、ってか。あーあ、一気に警戒心が向けられ始めたべ。

「んなわけないだろ! 、です! コイツは、旨い飯作ってくれて、学校でも皆に信頼されてて!」

火神の必死の弁護は、どうしたって虚しく聞こえる。この条件じゃ仕方ねぇだろ。

てかよ、あくまで俺は、誰もが心中に蟠らせていた疑いを早く晴らしたいだけなんだけどな。ホラ、ウチの劉なんて未だにベッドで寝てる女信じてねぇし。何より、これは今後のお互いのためだろ。

「待て待て。俺はこのままおざなりにしちまうよりも、ちゃんと決めたいだけだ。俺の考えてる結論は、ソイツを敵だと見做すもんじゃねえけど、この話をする限り今の言葉は避けて通れねぇんだよ」

若干敵意の視線が減っていく。こう言うとき、何も考えてないのか考えを放棄しているのかわかんねぇけど、紫原や青峰みてぇに変に無関心で居てくれる奴らの方が皮肉にもありがてぇな。

「確認してぇだけだって。全員少しは気にしてたことだろ。苦しんでるヤツを見殺しにするほど俺は薄情じゃねぇし、ちゃんと全員の中でソイツがどういった存在であるか確立させた方がいい」

「福井の意見に同意アル。事実、そこスゴい気になってたアル」

「……そうですね。椥辻さんが目を覚ましたら紙のことも話さなければなりませんし、その時に彼女に誤解を招かないためにも、一度話し合いましょう。もし意見が一致しなければ、その時はその時です」

“その時はその時” だなんて、珍しく根拠も確信もない言葉で締めた赤司。歯切れの悪い言い方が引っ掛かるし、何を企んでんのかしらねぇけど、とりあえず俺の話は続けてもいいらしい。


「で、そいつが邪魔者だとして。誠凛が見つけたものは紙からして“” でいいんだろ。だけどそれは“邪魔者”であるソイツのもんで、しかも “” どころか “” だった」

最初、その “毒” は “邪魔者” への “毒” だと思ってた。つまりそれは、鍵を取るために倒さなきゃならねぇボスを殺る道具。
暖炉を下りるメンバーがその “毒” を持っていかなかったときは突っ込もうと思ったが、緑間は離さない雰囲気だったし、赤司が何も言わない挙げ句 “毒” を使わなくても済むような人選をしていたから俺も口を閉ざした。

しかもいざ “毒” を開けてみれば、それは全く意味が食い違っていた。
話を聞けば、 “邪魔者” であるその女はバスケに全く関係ない訳じゃないらしいし、そう言う意味では “邪魔者” と言えねぇ。

この部屋から出るために、必ず “邪魔者” と対峙する必要はあった。その意図自体が罠なのか、それとも────。

「紙に書いてあることは事実だ。だからこそ、俺たちは考えなきゃなんねぇだろ」




“邪魔者” を助ける “毒” は。そして棺桶に閉じ込められた “邪魔者” は。




「一体、誰にとっての “邪魔者” であり、 “なんだろーな?」















意見は、微妙に分かれた。

「決まってるじゃないッスか!! 俺たちにとっての “” であり “邪魔者” ッスよ!!」

「はあ゙??? 黙れよデルモ。その “” を俺たちが使った場合、何か影響があんのかよ轢くぞ!!」

「一概に無し、とは言えんな。円香チャンが今吸ってるのは気管を広げる薬や。一般人が使ったら心臓バクバクしてまう」

「「「なっ、」」」 「ホラ!!」

「オイ今吉先輩、「けどなぁ、考えてみぃ。影響はたったそれだけ。しかもそない可愛いポーチに入っとって、中身も使い方も知ってる人間が3人も居る。その “” を円香チャン以外が使う場面の可能性はほぼゼロとちゃうん?」

「てかさ〜、どっちでもよくな〜い? みどちんがあんなに介抱してるし、もし何かあってもその時に捻り潰せばいいだけじゃん」

「むっくん! 相手は女の子だよ!」

「知らないしそんなの。それより早く鍵あけてここ出よーよ。お腹すいた〜」

結局、主に紫原のせいで、難しいことを考える思考はやる気を削がれたというオチになった。

「福井さんの結論は、どんなのだったんですか」

え、ココで聞くのか。話を振ってきたのは伊月で、奴の目にはまだ少し俺への牽制が宿っている。同じ学校だし、無理はないかもしんねーけど、ちょっと熱いな。

「俺はフツーに、この世界にとっての “邪魔者” と “” に1票。総括的に考えてその方がしっくり来る。ま、ソイツがキーパーソン的な位置にいるのは確実だろーよ」

「そう、ですか……」

なんかカオスな雰囲気になっちまって、収拾がつかない。俺、どうやってこの場を収めるつもりだったんだ? 劉は理屈を並べれば俺サイドに着いてくれるはずだったし、現にそうなった。んじゃあ誰が元凶って、

「勝手にすればいいのだよ。ただし、円香に何かしたら末代まで祟ってやるのだよ黄瀬」

ああ、黄瀬か。ぶっちゃけ俺たちにとっての “敵” であると判断する奴は居ねぇと踏んでたからこその大番狂わせ。マジ勘弁。あんなに緑間とかが過保護になるならそれだけで単細胞の信憑性に裏付けられたと思ってたんだけど、クソが。



「の、挑むとこッスよ!!!!」






よし、決めた。

「謝るわ、赤司。あと宜しく」