こうして円になると、つくづく大所帯だと少し笑ってしまう。こんなにたくさんの野郎を集めて何がしたいのかしら。まさかワタシと同じ趣味? いえ、違うわね。それなら目標はしっかり定めて確実に狙いにいくから。
今、進行役の征ちゃんの言葉で、4人が動いた。それぞれ何か収穫があったみたい。
誠凛の黒子くんはそこにある机の引き出しの中に。桐皇のさつきちゃんは隣の寝室の枕の下で。ウチの黛さんは机とは反対側にある陶器の花瓶の下に、紙を見つけたんだって。
そしてたぶん一番の収穫高を誇ったのは、誠凛のカントクちゃんね。本のように何十枚かの紙が重なった長方形の3分の1は、実は箱になっていたらしく、その中から可愛いアンティーク調の小さな鍵を出して見せてくれた。大きさからして出入口の物ではないと判断したから、あとで机の引き出しの鍵穴にでも試してみるそうよ。
さて、そうなるとまずやるべきは3人が見つけてきた暗号文の解読ね。それぞれが読み上げた内容は所々に空白があって、未完成だった。
さつきちゃんの持つ紙の内容はこう。
その の中には梯子が待っている。
その を降りたら一台の棺桶。
その の中には邪魔者がいる。
その の下には鍵がある。
とても大切な鍵が。
黒子くんの紙はこれ。
その箱は多くの の中に。
その本は賑やかな の中。
その棚は部屋の にある。
その部屋の後ろには がある。
その机に が仕舞われている。
その毒にもまた鍵が必要だ。
黛さんはこんな感じだったかしら。
ここに部屋の鍵がある。
その には花瓶がある。
その には底がある。
その には紙があって。
その の中には暖炉があった。
征ちゃんの提案で、彼に近い黛さんを@としてそこから右回りにさつきちゃんの紙をA、黒子くんのをBと呼ぶことになる。
AとBは一番最後の文が全て埋まってる。代わりに@は一番上の行が埋まってる。そして、3枚に共通するものは “鍵” 。だけど、それが同じのを示すのだとしたら少し物足りないわ。
あと気になるのは、読むときにさつきちゃんが言っていた空欄の大きさね。……もしかしたらこれはあれかしら。積立て文?
ワタシがそう考えているとさつきちゃんがおずおずと手を挙げ「すいません、」と口を開いた。
「あの、きーちゃ、───黄瀬くんの案で思い付いたんですけど、空欄に入る言葉はその前の文にある目的語だと思うんです」
そうして、ワタシが考えていたことと同じことを説明する。
彼女は持っていたリュックサックから紙と3色ボールペンを出して、「口でいうより、文を完成した方がわかりやすいですよね」と綺麗に笑い、書き終わったであろう紙を@の隣に並べた。
その??の中には梯子が待っている。
その梯子を降りたら一台の棺桶が。
その棺桶の中には邪魔者がいる。
その邪魔者の下には鍵がある。
とても大切な鍵が。
「これなら空欄の大きさの違いにもぴったりなんです」
「「「おお〜」」」
うん、彼女の案は正解に近いと思う。
すると黒子くんが、「では、」と自分の文を完成させた。
「
その箱は多くの本の中に。
その本は賑やかな棚の中。
その棚は部屋の後ろにある。
その部屋の後ろには机がある。
その机に毒が仕舞われている。
その毒にもまた鍵が必要だ。
その本は賑やかな棚の中。
その棚は部屋の後ろにある。
その部屋の後ろには机がある。
その机に毒が仕舞われている。
その毒にもまた鍵が必要だ。
ですかね」
聞こえてきた幾つもの単語に、各々が部屋を見回す。
暖炉は出入口の扉の真正面に。棚と机は暖炉に向かって右側に。その向かいには花瓶と、奥に寝室へ繋がる扉がある。
「黒子のはほぼ完成したようだね」
「はい。箱の指事語が分からないだけです」
「黛さんのはどうですか?」
そう征ちゃんに言われると、なぜか小太郎が黛さんのをかっさらって堂々と読み上げた。
「こうでしょ!!
ここに部屋の鍵がある。
その 鍵には花瓶がある。
その花瓶には底がある。
その底には紙があって、
その紙の中には暖炉があった!!!
その 鍵には花瓶がある。
その花瓶には底がある。
その底には紙があって、
その紙の中には暖炉があった!!!
」
「アホ。2つ目、文脈からして可笑しいだろ。空欄の大きさ丸無視かよ」
自信満々に言う小太郎の頭をいっぺん叩いて、黛さんは紙を奪い返した。唇を尖らせる小太郎は小学生みたいね。そして隣の黛さんは卒業を控えている……、もっと、仲良くできたかしら。惜しいことをしたわね、ホント。
溜め息を飲み込んで、そのまま思考を切り換える。今考えるべきはコレじゃないわね。
@は完全に完成していて、恐らく暖炉の辺りにナニカがあるのだろう。
「そうなるとAのハテナの部分が肝心ね」
「はい。梯子がある場所が分からないので……」
さつきちゃんが首を傾げると、誠凛のカントクちゃんが意見を足した。
「AとBの末行、それと@の序文に元から空欄がないところを見ると、それぞれの前後にもう何枚か続きがあると思うわ。だから@はどちらかの、または他の紙の前文に当たるんじゃないかしら」
「俺も相田先輩のように考えるのが無難だと思います。そして文字の空欄の大きさから、@とAは繋がっても可笑しくはないでしょう」
そう告げると、征ちゃんは何も見ないまま2つの紙の内容を繋げて暗唱した。
「
ここに部屋の鍵がある。
その部屋には花瓶がある。
その花瓶には底がある。
その底には紙があって、
その紙の中には暖炉があった。
その暖炉の中には梯子が待っている。
その梯子を降りたら一台の棺桶。
その棺桶の中には邪魔者がいる。
その邪魔者の下には鍵がある。
とても大切な鍵が。
その部屋には花瓶がある。
その花瓶には底がある。
その底には紙があって、
その紙の中には暖炉があった。
その暖炉の中には梯子が待っている。
その梯子を降りたら一台の棺桶。
その棺桶の中には邪魔者がいる。
その邪魔者の下には鍵がある。
とても大切な鍵が。
」
「すげー! ちゃんとお話になった!」
「正解なのかは他の紙を見つけてみないと何とも言えませんが、とりあえず今の段階では他に思い付きませんし、これで進めてみませんか」
流石というかなんと言うか。征ちゃんのその案に反対する人なんて誰一人居ない。中身は大きく変わったけれど、外側は大して変化はないのかしら。少し寂しいわね。