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「#幼馴染」のBL小説を読む
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一件目の被害者、橋本和弘。捜索願提出済、最後に家を出たその一週間後に遺体で発見。
二件目の被害者、瀧本健児。捜索願は出ておらず、欠勤日の翌日に遺体で発見。行方不明期間で言えばおおよそ二日。
三件目の被害者、常田美奈子。捜索願提出はされたが、受理するほんの手前に遺体で発見。行方不明期間は三週間強となる。

そして常田美奈子の発見後、捜索願も出されていない安河内 千栄【ヤスコウチ チエ】が新たに事件の四件目の被害者となった。遺族は江戸に住んでおらず、彼女の職場に問い合わせれば感染症の風邪にかかり二週間前から仕事を休んでいたという。誘拐説を使ってもいつ誘拐されたのかが判断できない。

一件目と二件目については、死斑がほぼ確認されないことを始め司法解剖の結果からもわかる通り遺体の血は殆ど失われている。また、心臓部に切創がひとつあった。
ただし一件目は現場に血痕が無かったのに対し、二件目と三件目は辺りに血痕があったのでそこで殺害された可能性が高い。
しかし、三件目の遺体には血液の量も死斑が出るくらいに残っていたのに加え、心臓部にある同様の切創とは別に刃物で抉った痕跡がある。そして、腕には注射針の痕も見られた。
四件目の遺体にも注射針の痕があったものの、切創は他の三件と同じだ。


『注射の痕についてだが、……司法解剖の際に二件目の遺体にも右大腿部にある大きな血管にも同じ様な注射の痕が発見されたらしい。写真を見る限りは同じ大きさだ。口径から察するに採血用の中でも太い注射針を使っている』

「三件目のケースは今回の一連と関与がある方向なのか?」

近藤勲、土方十四郎、それから沖田総悟の前で山崎退と並んで座る私都恭夜。退の説明と私都恭夜の補足を受けた勇の問いに、事件の捜査隊長が答える。

『恐らく。…模倣犯にしては、心臓の切り口が上手すぎている。あれはそんじょそこらの成り上がりには出来ない。加えて瀧本と安河内にもあった注射針の痕がかなりの証拠になるだろう』

なるほど、と頷いた真選組局長はそのまま黙りこんでしまった。
次に口を開いたのはその右に座る副長である。

「現時点で最も大事だと思うのは何だ」

『注目すべきは切創の違いと、遺体発見までの行方不明期間、……でも一番は、各事件同士の間隔だと思う』

顔を歪めた上手に座する三人の男に私都恭夜は怯える様子もあやす様子もなく、無表情で淡々と二の句を継いだ。

『遺体発見までの日数で言えば、一件目と二件目の差は、一ヶ月半だ。正確にいえば一ヶ月と十七日。約五十日弱。次に二件目と三件目の差はおおよそ一ヶ月。それで、三件目と四件目に関しては二週間半だ』

「……事件の勃発間隔が短くなってるってことだな」

「男が二人続いて女が二人ってのは?」

『……無差別の判断で捜査を進めたいとしか言いようがない』

はぁーっ、とため息が二つ。総悟だけが、僅かに伏せた目で畳の上を見つめている。

確実に共通して言えることは、死因が出血多量であることのみ。あと強いて言うならば一番の要点だと言われた事件の間隔だろう。
私都恭夜としては、そこがどうしても気にかかっていた。

『……単独犯の可能性はやはり低いかもしれない』

「あ?どういうことだ」

『一件目は、血痕どころか何の爪痕も無かった。四件目にしたって同じだ。言ってしまえば他のものについても、有益な手がかりは一つも残っていない。計画殺人なんだよ、立派な』

なのに。と、私都恭夜は畳の上を人差し指でトントン叩く。総悟の目線が、そちらに這った。

『あまりに矛盾点が多すぎる。共通点が一つなんて可笑しい。もっと完璧を求めるならば、少なくとも矛盾点なんて出さない。捜査を攪乱するにしたって、そっちの方がある意味余計なリスクを抑えられる』

期間が短くなるのは、向こうの計画だと言えよう。ただ行方不明の期間の面で見れば、二件目が明らかに短い。創傷の点ならば、三件目が異常だ。あそこまでするなら、四件目も同じように揃えたって良かったはずだ。そっちの方がこの異質さが目立たない。あの切創にすべき理由があった、若しくは────。

『────目的は、快楽的・自己満足的な殺害ではなく、……血液…』

「血ですかィ?」

『……吸血事件と名付けられるくらいだ。血を抜く意味は、死亡推定時刻判定を鈍らせることや身体に含ませた薬などの検出を防ぐ為だと思っていたが、』

私都恭夜は、ここで初めて呼吸らしい息をした。

『……とにかく。三件目の二種の切創からしたってやはり単独犯とするのは厳しい。計画をする人間と実行をする人間に分かれているか、参謀として動く人物の予期せぬ事態を引き起こした人間がいるはずだ』

次々と出てくる私都恭夜の見解は、殺人事件の謎を解決したことがない土方にとっては実に舌を巻くものであった。的を得ているのは勿論、犯人像まで想像している内容に正直挟む口がない。

「……そうだとして、どうする」

言えるのは、不甲斐ないながらもそれだけだった。

『さっきも言った通り、事件の間隔は短くなっている。四件目から今日で三日経った。いつ次の被害者が出てきても可笑しくはない。昼夜問わず警備を強化すべきだろう』

もうひとつ、と私都恭夜は人差し指を立てる。


『常田美奈子の遺体発見現場付近で大きな建物を調べる。大きくなくても構わない、人目に付きにくい場所を捜索したい』





汚名返上ってところだ






「常田美奈子の遺体発見現場の辺りで大きな建物を調べるわ。大きくなくても構わねェ、人目に付きにくい場所を捜すぞ」

同刻、違う場所で二つの赤い瞳が細められた。その先にいた青年をかける眼鏡と、チャイナ服の少女は首を傾げる。

「常田美奈子さん、って。三件目の、銀さんが第二発見者になった……」

「何でそいつ限定アルか?」

「あの仏さんだけ吸血されてなかったし、私都の話では他のものと違う刺し傷もあったんだわ」

銀時は見せつけられたあのエグい腹部の傷を思い返しながら、椅子の脇息に肘をついてその先の手の甲に顔を乗せる。

「名探偵銀さんが思うにな、……そいつ、逃げてきたんじゃねーかなって話だ」

「逃げて…?」

「そ。逃げてきちまったから他の遺体と違う点が多かったんじゃねーの?普通に考えて血を抜くなんてスゲー時間かかるわけじゃん。どうやってんのか知らねェけど、心臓の切り口から採血するにしたって大分かかると思うわけよ」

「……でも、同じく現場で殺されたと思われる瀧本さんの遺体は血が抜かれてましたよ?」

新八の補足に、銀時は一瞬息をつまらす。それから目線を右へ左へ泳がせてから、咳払いした。

「い、いや、でも。その現場で殺されたらしい瀧本の発見現場と美奈子チャンの発見現場は距離的にも近いわけだし…、怪しくね?」

「それはそうですけど……。僕のさっきの疑問にはどう説明してくれるんですか?」

「バカヤローメガネこのヤロー。そういうのは警察の仕事だろーが」

「アンタさっき名探偵名乗ってたじゃねーか」

つまり、その場で殺害された瀧本健児が血を抜かれたのに常田美奈子の血は抜かれていなかった理由は分からないらしい。
とはいえ、銀時の話も一理ある。こういうことには勘や鼻が良く働く男だというのも新八は十分理解しているつもりだ。

「でも銀ちゃんがさっき言ってた、事件の間隔がどんどん短くなってる話が本当ならおちおちしてられないネ」

「そうだね。分かりました、やってみましょう!」

「おー。……あ、でも新八と神楽には別の頼みがあンだけど」

その質問にまたも首を傾げた二人の従業員に、銀時は少し背を椅子に沈ませて天井を仰いだ。

「……あのかぐや姫の様子、二人で見に行ってみてくんね?あと、四件目の事件の情報ももうちょい集めて来てくれや。とりあえず捜索は俺がするからよ」

「あ、…はい。分かりました」

「確かオネーサンは姉御の店でお世話になってたアルな?」

「うん。だから姉上を通して明日会えるか聞いてみましょう」

「じゃあ今日はこの前の事件の捜索アルね!」

不謹慎ではあるが、テレビドラマでよく観ていた探偵や刑事のような今回の仕事に対し、神楽はかなり積極的だ。新八としても、知り合いが深く関わっている故に何としてでも解決したいと思っていた。
しかし銀時としては、あまり二人に深追いをさせたくないのが本音だ。危険のリスクが大きくなったところで頃合いを見てどうにか直接的な関与を避けさせたい。

それに────…。


『は、じ……め……、』


この事件を追えば、“彼女”に会える気がする。倒れて看病をしたときに貸した服を返しに来たその日は銀時が不在で、対応したのは新八と神楽だ。
常田美奈子を発見したときも、真選組が到着すると直ぐにそちら側に入ってしまった。良かったことと言えば、女人隊員禁制である真選組における彼女の役割を別れの挨拶代わりに本人から聞いたことだけだ。

「……真選組、かぶき町神隠し吸血事件捜査隊長、私都恭夜……ね」

「え?銀さん、今何か言いましたか?」

「いや、何でもねーよ」

どうしてこんなに。あの後ろ姿が目から離れないのだろう。銀時は瞼を閉じて、もう何度思い返したか知らない光景にまた焦がれた。


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