大切な…
シズクが目を覚ましたことでホッとしたのの束の間、シズクの言葉が違うことに気づいたわ。
初めて会った時にも一度だけ聞いたあの言葉。
でも、何を言ったのか私には分からなかった…。
それは今も変わらなくて、目の間でぼんやりとするシズクに私は恐る恐る声をかけた。
「シズク、私、言葉、分かる?」
出来るだけゆっくりと話しかける。
すると、シズクは小さくだけど頷いてくれた。
「ダガー、話す、ゆっくり、大丈夫」
「そう! それなら良かったわ」
嬉しくて両手を合わせると、シズクもそれが分かったのか花が咲くように笑った。
でもそれもつかの間、シズクは辺りを見渡すと小さく首を傾げる。
「ダガー、ひとり?」
シズクに聞かれて私は思わず小さく声を漏らした。
そうよね、気を失うまでいた人がいなくなったら普通気になるわ。
「いいえ、ジタンとビビがいるわ。水を汲みに行ってくれてるの」
「ふたり、怪我、ない? ダガー、痛い、ない?」
そこで私は思わず言葉を失った。
ひどい怪我をしていたのはシズクで、その原因は私の国で…
それなのに、どうして私の心配が出来るの?
どうしてそんなに優しく出来るの?
罵倒されても仕方がないというのに、シズクは今では真っ黒な瞳を不安げに潤ませて私を見てきた。
顔に…出てしまったのかしら。
私はなんでもないと首を横に振って口を開いた。
「ふたりとも大丈夫よ。私も元気ですし、痛いところもないわ」
「…良かった……」
ずっと気にしてたのね…。
私がそう言うとシズクは、ようやく胸をなでおろすように息を吐いた。
でも、わたしの中のもやはまだ晴れないままで…
顔をうつむかせていると、シズクが私の手に触れて見上げてきた。
「ダガー…?」
「シズク…ありがとう…」
「?」
「貴女が魔力を分けてくれなかったら私はどうなっていたか分からなかったわ。でも…私、怒ってもいるのよ?貴女は酷い怪我をしていたのに私を助けようとしていた。もしかしたら死んでいたかもしれないのに……」
そう、心に残るもやはきっとこれ。
死ぬかもしれないのに、自分の力を分け与えるなんてとっても危険なのに…。
それなのにシズクは、躊躇いなくそれをやったと聞いた。
自分のことなんて顧みない。
そんな危うさを助けてもらっておきながら怒るなんて、私はどうかしてるのかもしれない。
それでも、言わないという選択肢はなかった。
私の責めるような口調に、シズクは少しだけ黙っていたけど、困ったように笑って唇を動かした。
「ダガー、私、大切、人、守る、したい…。見るしても見ない…、嫌い。身体ある、力、ある。大切な人、守ること、したい。」
一つ一つ、単語を組み合わせて話すシズク。
この子の気持ちはよく分かるわ。
助ける力があるなら、私だってそれに使いたい。
でも……
「……その為に、死んだら意味がないわ」
「そう?」
「貴女が死んだら悲しいもの」
「悲しい……?」
「そう、ジタンもビビも私も。スタイナーだって…。みんな悲しくて自分が許せなくなるわ」
まるで自分が死んでも誰も悲しまないというようなシズクに、私はつい言葉尻が強くなってしまう。
それに、シズクが落ち込んできたのか、少しずつ声が落ちてきた。
「……許せない…の?」
「ええ、自分の不甲斐なさがね」
「……それ、…辛い?」
「……ええ、とっても辛い」
分かって欲しい。
たとえ生まれた世界が違っても、みんなシズクの事が大切なのだと。
だから自ら命を粗末にするようなことはしないでほしいと。
私がゆっくりと言葉に祈りを込めながら言うと、シズクはうつむいた。
そして、
「……………ごめんなさい」
小さな声が聞こえてきた。
分かってくれたのかしら…。
この小さな謝罪に少しだけ安堵していると、ジタンたちの明るい声が聞こえてきた。